出版社内容情報
「完全参加と平等」の理念を実現するための重要方策としての“障害者の権利条約”。3年余の議論を経て今年1月の国連作業部会で作成された条約草案を翻訳紹介すると共に、障害当事者を中心としたNGOの意見が反映されたことの意義を詳細に分析する。
まえがき
第1章 日本における現状と障害者の権利条約の可能性(金 政玉)
はじめに
1 国際人権基準からみた日本の障害者法制の問題点
1 自由権規約との関係 2 社会権規約との関係
2 障害者の権利条約の意義
第2章 第2回特別委員会までの到達点(川島 聡)
はじめに
1 第56回国連総会
2 第1回特別委員会
1 NGOの参加手続 2 条約内容の討議 3 総会決議案
3 第2回特別委員会
1 条約作成の明確な合意 2 条約内容の討議 3 作業部会の設置決定 4 作業部会の構成員
むすびに
第3章 作業部会と条約草案-画期的なNGO、障害者の参画(長瀬 修)
1 作業部会の開催
2 障害者・NGOの大きな役割
3 会議の進行
4 条約草案の概要
5 主な論点
1 国際協力 2 自己決定 3 差異の権利 4 定義 5 差別の定義と「合理的配慮」
6 統計とデータ 7 社会権の漸進的実現義務と救済 8 特別措置 9 生命に対する権利
10 身体の自由、強制的治療・強制的施設収容 11 教育
私たちの社会には障害者に対する多くのバリアがある。障害者の尊厳と権利が十分に尊重されていない。必要な人的・技術的支援を障害者に対してきちんと提供することもできていない。しかし、あらゆる人間の多様性を認め、障害者の自己決定権を保障し、平等な機会を保障することは、私たちが目指す豊かで、活き活きとした社会にとって欠かせない。
そうした問題認識を国際的に生み出したきっかけが1981年の国際障害者年であることは間違いない。「完全参加と平等」という同年の理念は現在も通用する。その理念を実現する1つの有効な方策が障害者の権利条約である。そうした認識のもとに、障害者であるか否かを問わず、誰もが暮らしやすい社会を創り出すために、障害者の権利条約の策定過程が2001年12月の国連総会決議以来進められている。
「障害者の条約は国際障害者年からの取り組みの論理的な着地点である」とは国連総会決議に基づいて開かれた第1回特別委員会での、障害者の機会均等化に関する基準規則の特別報告者(当時)のベンクト・リンクビスト氏の発言である。
2002年6・7月の第1回特別委員会で条約が果たす役割が認められ、2003年6月の第2回特別委NGO(非政府組織)を通じて、日本からの影響が条約策定過程に及んでいる現実がある。いっそう充実した内容の条約にするために、より多くの人にこの条約草案に触れてほしい。権利条約は、日本国内での今後の動き、たとえば障害者基本法改正、障害差別禁止法制定、精神保健福祉法改正、国内人権機関設置、次期科学技術基本計画策定等とも密接に関係していくからである。
以下、本書の構成について述べたい。第1章の金論文は、日本国内の現状と国際人権基準との関連を取り扱い、障害者の権利条約への期待を述べている。金は2004年1月の作業部会では、日本政府代表団にNGOからのオブザーバーとして加わった。
第2章の川島論文は、第56回国連総会、第1回特別委員会、第2回特別委員会までの動きを取り上げ、分析するものであり、条約実現に向けた第2回特別委員会までの到達点を明らかにする。
第3章の長瀬論文は、障害学の観点を交え、2004年1月に開かれ、NGOが正規の構成員として発言権を確保して条約草案をまとめた作業部会の動向を記述し、条約草案の主な論点を分析している。
最後に資料として、作業部会がまとめた条約草案(作業部会報告・付属書1)、国際協力
目次
第1章 日本における現状と障害者の権利条約の可能性(国際人権基準からみた日本の障害者法制の問題点;障害者の権利条約の意義)
第2章 第2回特別委員会までの到達点(第56回国連総会;第1回特別委員会 ほか)
第3章 作業部会と条約草案―画期的なNGO、障害者の参画(作業部会の開催;障害者・NGOの大きな役割 ほか)
資料(障害のある人の権利及び尊厳の保護及び促進に関する包括的かつ総合的な国際条約草案;特別委員会において検討されるべきである国際協力の論点に関する討議要約)
著者等紹介
長瀬修[ナガセオサム]
東京大学先端科学技術研究センターバリアフリープロジェクト特任助教授。1959年、青森県八戸市生まれ。上智大学でわかたけサークルに所属。1983年から3年間、青年海外協力隊員としてケニアで活動。1987年から八代英太参議院議員公設秘書、1992年から国連事務局障害者班(ウィーン、ニューヨーク)専門職員として勤務。1995年にオランダの社会研究大学院(ISS)にて政治学の修士号取得。2002年4月より現職。1997年から全国精神障害者家族会連合会の『レビュー』誌編集委員、2001年から“Disability&Society”の海外編集委員、2002年4月から青年海外協力協会理理事、2003年6月から全日本手をつなぐ育成会の国際活動委員長、2003年10月から障害学会理事・事務局長、2004年12月から“Review of Disability Studies”の特別フェローをそれぞれ務めている
川島聡[カワシマサトシ]
新潟大学大学院現代社会文化研究科(博士課程)在籍。1974年東京生まれ。2002年9月より東京大学先端科学技術研究センター交流研究員、国際福祉医療カレッジ非常勤講師(法学)。2004年3月より全日本手をつなぐ育成会・国際活動委員。現在、障害者分野の国際人権法(国際障害者権利法)について研究している
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