出版社内容情報
何10万年にもわたり生態系に有害な放射能を発する核廃棄物処理問題は、米国や日本のみならず環境・社会問題を内包する重要課題である。米国における有害廃棄物受入先であるユタ州先住民族の苦闘の歴史をたどり、環境正義の見地から実証的に分析、提言する。
まえがき
第一章 環境正義運動・研究
環境正義運動
環境正義研究とスカルバレイの事例
理論的枠組み
研究課題
研究方法
本書の概観
第二章 米国先住民族と核廃棄物
米国核廃棄物政策の歴史
核廃棄物政策と米国先住民部族
ヤッカ山と西ショショーニ部族
MRS計画とメスカレロアパッチ部族
電力会社の利益優先主義とエスニックマイノリティ
NSPとプレイリーアイランドインディアン部族
ルイジアナエネルギーサービス
マニトバ水力発電会社とピミシカマククリー国家――カナダ
第三章 スカルバレイゴシュート部族――荒野に生きる
古代スカルバレイ
忘れ去られた砂漠の人々
奴隷貿易業者と毛皮貿易業者
モルモン教徒入植
ヨセパ――ハワイの隣人たち
ゴシュート部族と米国連邦政府
第四章 トゥエラ郡環境史――ごみの巣窟
連邦軍部とトゥエラ郡の地理
冷戦の悪夢
トゥエラ郡――低レベル核廃棄物の捨て場所
トゥエラ郡――各種有害廃棄物企業を歓迎
スカルバレイゴシュートインディアン部族の孤独
第五章 高レベル核廃棄物――スカルバレイ
ユタ州の小さな先住民居留地から見えてくる、米国の歴史や政治経済、人種差別の構造はきわめて残酷なものである。本書が現在の米国社会を理解するための手がかりの一つになるのであれば幸いである。原子力発電所と核廃棄物、そして社会の末端に位置する人々の人権の問題は、アジアに住む私たちにも共通している課題である。核廃棄物処理に関して根本的な解決策を見出さないままに、原子力発電を続行することが一体何を意味するのか、真剣に考えていかねばならない。
イラク戦争が泥沼化している現在、私はトゥエラ郡地域を始めとした米国西部に構築されてきた、あの悲惨なる地理空間を思う。各種兵器の実験、開発、生産、貯蔵、焼却が、一般社会からは見えにくい、米国内の辺境で進行し、政治的な発言力の弱い人々、そして彼らが住む土地が犠牲になってきた。ブッシュ大統領による「民主主義」「正義」という言葉も、虚しく聞こえる。日本政府による自衛隊のイラク派遣が秒読み段階に達している今、限りない不安と怒りを感じずにはいられない。
内容説明
本書は、米国先住民部族居留地への核廃棄物施設誘致に関する、複雑な歴史、政治経済、そして地理的な背景とプロセスを検討し、環境正義と民族自決問題について考察するものである。
目次
第1章 環境正義運動・研究
第2章 米国先住民族と核廃棄物
第3章 スカルバレイゴシュート部族―荒野に生きる
第4章 トゥエラ郡環境史―ごみの巣窟
第5章 高レベル核廃棄物―スカルバレイへの道のり
第6章 先住民部族自治権と環境正義
第7章 環境正義運動―より革新的な政策を
著者等紹介
石山徳子[イシヤマノリコ]
1971年東京都生まれ。1995年日本女子大学文学部英文学科卒業(アメリカ研究専攻)。1997年同大学大学院文学研究科博士課程前期修了。1998年慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程中退。2002年ラトガース大学大学院地理学研究科博士課程修了(Ph.D.)。2004年4月より明治大学政治経済学部専任講師(予定)。専門は人文・政治地理学、地域研究
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