内容説明
その勢力を西へ拡大した唐と、東へ伸長としたアラブ・ムスリム。最新の考古学、貨幣学、言語学史料の研究成果を手がかりに、7~8世紀中央アジアにおける東西ユーラシアの衝突・交流・融合の歴史を描き出す。舞台はパミールの西、境界を越えて旅した者達の足跡を追う!
目次
プロローグ 玄奘の出立
第1部 七世紀中葉(六六一年 西域十六都督府;六六六年 東部アフガニスタンのハラジュの王国)
インターミッション 慧超の旅
第2部 八世紀中葉(七五一年 タラス河畔の戦いと悟空の旅;七五七年 安史の乱時に入唐した大食)
エピローグ 悟空の帰還
著者等紹介
稲葉穣[イナバミノル]
1961年新潟県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程指導認定。京都大学人文科学研究所教授、同研究所長。専攻は中央アジア史・東西交渉史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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MUNEKAZ
21
唐とイスラム世界の緩衝地帯となった中央アジアの歴史を、漢文資料やイスラムの文献、考古学の成果などを交えて描く。全体的に地図が多く、馴染みの薄い地域の研究をなんとか伝えようとする著者の熱意が印象的。今と違って明確な国境線などなかった時代に、大帝国のはざまで独自に活動していた人々の姿が、朧気なりとも伝わってくる。有名なタラス河畔の戦いも、そうした曖昧な地域での偶発的な衝突だったのか。安史の乱で唐に協力したムスリムも、この地域からの移住民や傭兵であり、アッバース朝からの派遣ではなかったというのも面白い。2022/08/09
パパ
3
イスラム圏と中華圏の間にあるアフガニスタン近辺の8世紀頃の歴史地理を、玄奘や慧超の旅程を絡めて説いているもの。著者はペルシャ語やアラビア語の文献史学がベースで漢籍に触れたというキャリア。ウクライナ問題を理解するには不可欠な中央アジア史や西アジア史の解明に寄与する内容。タラス河畔の戦いの歴史的意義をどう考えるかは著者の見解に納得した。、2023/06/04
すいか
3
様々な勢力が複雑に入り組んで興亡を繰り返すために詳細な史料が残りにくい中央アジアの歴史について、従来の漢文史料に加えて近年の考古学的成果、更にイスラーム側の史料を綿密に精査して、明らかにしていく、気の遠くなるような作業だが、この時代のシルクロード史に強い思い入れがあるので、読んでいてとてもわくわくした。出土硬貨の比較分析によってこれだけ高い情報量が得られるというのには目から鱗。あとがきで言及されるこの地域の現状に、研究者としての危機感と苦悩がにじむ。2022/04/28