出版社内容情報
「やくたいもない」とは、静岡の方言で「役に立たない」の意味である。私たちの社会では、生産性・有用性がないとして、切り捨てられていくものがある。しかし、損得勘定を抜きに夢中になれるものとは、元来「役に立たない」ものではないだろうか。家族への愛情や、芸術作品への憧憬など、市場価値では測れないものこそ、人間という存在のなかにある普遍的なものである。京都工芸繊維大学名誉教授としての定年退職を迎えた著者が、出身地の静岡を主な舞台に、自身の過去と現在をみつめながら、個別的普遍性をめざした「やくたいもない」エッセイ集。
内容説明
「役立たず」を意味する静岡方言「やくたいもない」。帰郷した哲学者はこの言葉を手掛かりに、有用性や生産性に向かう時代の奔流に抗して、庭に生える梅の古木、魚釣りのアタリ、昔聞いた落語の演目、早くに逝ってしまった親しい人々、押し入れの奥から出てきた古い写真など、生活に射す光と陰に思いを巡らせ、その痕跡を文学的タッチで記録していく。著者自身の過去と現在、その個別的な体験から人間の生の深みに測針を下ろすエッセイ集。
目次
梅三話
カワハギを釣る
触る
“二階ぞめき”
言葉という空間
家・存続するもの
寺山修司がまだ生きていた頃
かたちのない死
追悼二つ
梅ウォッカと「無用庵」
古い写真
やくたいもない話―大石家小史
静岡大火の写真
小林清親と横内川
スタンド・バイ・ミー
著者等紹介
伊藤徹[イトウトオル]
京都工芸繊維大学名誉教授。1957年静岡市生れ。静岡県立静岡高等学校、京都大学文学部卒業。京都大学博士(文学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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