出版社内容情報
戦争の悲惨さが増した近代、西欧社会でうまれた赤十字運動は日本にどう根付いたのか。皇室の全面的な保護のもと、標章はキリスト教を由来としない非宗教的なものであると強調し、その戦時救護活動が普及。日露戦争から第二次世界大戦にいたる過程で、国際主義と国家主義のはざまに立ち、国民統合装置としてゆるやかに近代日本を支えた側面を描く。
内容説明
日本における赤十字による救護活動は、皇室の全面的な保護のもと普及した。日露戦争から第二次世界大戦にいたる過程で、国際主義と国家主義のはざまに立ち、国民統合装置としてゆるやかに近代日本を支えた側面を描く。
目次
二つの質問―プロローグ
アジアで最初の赤十字社
昭憲皇太后と赤十字
劇場としての戦争
太平洋戦争期の日本赤十字社
赤い十字運動の原則と実践―エピローグ
著者等紹介
小菅信子[コスゲノブコ]
1960年、東京都生まれ。1992年、上智大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程修了。現在、山梨学院大学法学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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崩紫サロメ
21
日本における赤十字の活動について、キリスト教起源ヨーロッパを対峙すべき他者としつつ、列強の中に自己の居場所を見出し、かつ自己の文化的固有性を模索する、日本の近代君主イメージ創出と密接に関わる(p.78)という観点から論じている。やがて西洋と対峙するアイデンティティの模索と、「国民軍」の士気の維持という二つの課題は、天皇のための名誉の戦死という実践において一体化し、反西欧としての自己の文化的人種的優越性を示すためのパフォーマンスとなっていく(p.128)2021/04/07
Aby
6
人道・博愛の赤十字社が,どのように日本に受容され,変遷してきたのか.当初は日本の欧化政策を背景にして,皇室の保護を受けて,「国民統合の装置としての赤十字(p.172)」は広く国民に浸透してきた.世界の中で日本の評判を落とさないよう,人道の優等生であろうとしてそれを達成してきたが,満州事変以降には変節する.日本国民も貧困状態にあったとはいえ,赤十字の使命である捕虜の保護は全く達成できなくなった.現在では,「不戦の国の赤十字」として戦時の救護活動を行わない特異な例となっている.2022/04/09
アメヲトコ
6
21年2月刊。赤十字と近代日本の関係を追った一冊。敵味方を隔てない戦時救護という博愛思想の受容の一方で、皇室とりわけ皇后と密接に結びつき、ナショナリズムとも親和性をもつというジレンマが描かれます。「十字」というシンボル受容をめぐる、非西洋非キリスト教諸国家のスタンスの違いも興味深いところ。2021/05/07
烟々羅
3
本文中に脚色の余地も感情を煽る形容もなく、ただ事実のみを述べ、個人が活躍するでもない。だが小説のように面白く読めたドキュメンタリー。(本文と限定したのは、序文に読者への問いかけがひとつあるから)。 日本赤十字の歴史であり、同時にキリスト教文化と日本文化がどう付き合ってきたかという記録であり、互いの人種観記録である2023/11/06
Junichi Watanabe
3
#読了 。誰でもが知る日本赤十字社「日赤」の発足から現代に至るまでが書かれている。とりわけ皇室との関係が重点的に書かれていて、非西洋非キリスト教国としての立場、白地赤十字旗章の成立や意味など大変興味深い。戦争映画や漫画等で戦場で赤十字が活躍する場面などを見たことがあるが、戦争と切っても切れない関係なんだと、忘れていたことを思い出させてくれた。自治会の人が毎年寄付の集金に来て何も考えずに出していたが、次回から「社員」として自覚を持ち寄付したい。2021/08/27