内容説明
医師免許がなかった江戸時代。医師として必要な「学問」をいかに習得したのか。当時の医界を支えた「学統」や、医学の先進地への「遊学」など、就学プロセスを素材に実態を描く。医療の近代化を促した原動力にも迫る。
目次
医師の身分と学問―プロローグ
医を学ぶ場所―専門教育機関の設立(医療環境の成熟と専門教育機関;彦根藩医河村家の学問;「京学」―京都の医界に学ぶこと)
ある地方医師の京都遊学―日記史料をよむ(名医を輩出した越前国府中領;府中領の医療環境;京都へ向かう、入塾先を決める;新宮塾の講義とテキスト;苦境をきわめた京都遊学;府中医師にとって遊学とは)
変質する医療環境―近代医学への胎動(種痘普及という画期;安政期福井藩の医学教育改革)
医師環境の近代化を準備したもの―エピローグ
著者等紹介
海原亮[ウミハラリョウ]
1972年、大阪府に生まれる。2003年、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学。2005年、博士(文学)。現在、住友史料館主任研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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きいち
37
とても現代的。◇資格がないとき、自分の能力をどう証明するか。方向性は二つ。まずは学習の履歴。何をどこでどれくらいの期間学んだか。「何を」ここでは、蘭方漢方わけ隔てない。西洋医学の優越は定まってない(あっちもまだ瀉血とかしまくってたんだしね)なか、決めずに折衷して納得解、なるほどそれが実践家の撮るべき道。プラグマティック。◇もう一つは、自治による質保証。公儀の無策によるものとはいえ、これもまた現代的な手段。◇先進の地はこうして、なんとかできる。でもそれは一部の地域。国の果たす役割の価値も逆に思い知らされる。2017/07/17
さんとのれ
5
医師免許のない時代に、人はどうやって医学を身に着け医師になったのか。国がバックアップするような養成機関はなく、地方レベル、個人レベルで、金策に悩みながら研鑽を積んでいたようだ。史料が限られている分扱われている対象も部分的で全体像は見えにくいが、こういうちょっと変わって珍しい分野を扱っている本を読めるのはうれしい。2015/05/14
さとうしん
5
現代のように国家試験なんて無いから、なろうと思えば誰でもなれたと言われることもある江戸時代の医師。しかし(当然ながら)実態はそんな簡単なものではなかったということで、京都への遊学を中心に江戸時代の医師教育についてまとめています。遊学の話は朝日選書の『剣術修行の旅日記』と合わせて読むと面白いかも。2014/12/15
きさらぎ
3
さっくりいうと、1)医者を生業とするとは(医師の生活) 2)遊学の実態・実情(一藩士の場合) 3)公儀(藩・幕府)による「医療体制の構築」とは、という3つのテーマがあるようだが、ちょっと本としてはそれを貫く視点が弱いかな、という印象を受けた。とはいえ個々の事例に沿ってそれぞれ丁寧に記述されているので面白いし参考になります。京都に遊学してきて家賃や紙代の捻出に頭抱えるところなど、具体的にイメージ出来るので、この時代を描く際に役に立ちそうです。2014/12/29
ソーシャ
3
江戸時代末期、医師免許もない中で医師たちはどのように研鑽を積んでいったのかを資料に基づいて解説した本。当時の藩による医学教育制度の試みや医師たちのネットワークなどにも触れつつ、明治政府の医学教育制度ができる以前の医師たちの姿をよく描き出しています。「私も頑張らないとな」と思える本でした。2014/11/20