内容説明
「借りたものは返す」「利子はひたすら増殖する」という現代の常識。それと異なる独自の論理が中世にはあった。社会を円滑に循環させるため、借金システムが機能していた事実を明らかにする。はじめての中世債務史入門。
目次
昔から法外な利子でも返済してきたのか?―プロローグ
中世社会と貸し借りの世界(飢饉・疫病の日常化と債務契約の必然性;年貢・公事の代納制と債務契約;室町期荘園制の代官請負と債務契約;巨額な資金の調達法;借金のおかげで社会がまわる)
中世債務返済をめぐる在地慣習法(法外な利子は返さなくてもよい;質物は安易に他人のものにならない;利子率制限法はなかった;中世の利息は総額主義で一定額以上にはふえない;無利子の借銭;借書の時効法)
債務と返済の循環が連続する世界へ―エピローグ
著者等紹介
井原今朝男[イハラケサオ]
1949年、長野県に生まれる。1971年、静岡大学人文学部人文学科卒業。1979年、東京大学史料編纂所内地研究員。1996年、史学博士(中央大学)。現在、国立歴史民俗博物館教授、総合研究大学院大学教授(併任)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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壱萬参仟縁
7
なぜか中世日本の歴史に疎い人がいて、なんとか関心を喚起したいと思い、借りてみた。「借金のおかげで社会がまわる」(74頁~)の章は意味ありげ。格差社会では非正規のおかげと思ってほしい。「替米(かえまい)」とは平安~鎌倉初期にみえる借米で、コメを貸し付けた制度(82頁)。「民衆が生き抜くことの困難な中世社会経済の本質的な部分は、借金という貸付取引に依存しなければやっていけない生産力段階にあった」(104-5頁)。今の貧困女子は月10万以下 の番組で理解された。債務者の権利保護は近代より中世が卓越(140頁)。2013/04/23
珈琲好き
6
中世の税金は国司を始めとした各階層の徴税請負人が借金を背負ってまで私財を投じて徴税していた。国司は勤務評価されて税金を完納できないと左遷された。借金の利息は無制限だが元本の2倍までという良心的設定だった。秋に実れば稲の一粒から200粒程度の米が取れるので、春の私水挙自体は大した借金でもなかった。田畑の質流れといっても債務者の同意がなければ所有権は移転せず、元本2倍の借金を返せばいつでも取り返せるという厳しい制約があった。中世の官僚も普通に律令を法源としていて、律令は形だけの無用の長物ではなかった。2017/09/17
フランソワーズ
3
「古代・中世は債務と返済によってモノが流通・交流し合う貸付取引の世界」でもあったことに驚き。さらには近代・現代とは異なり、債務者に手厚い社会であった。利子が元本を上回ることがなかったり、質は債権者に流れることがなかったなど、今日とはずいぶん違っている。それは背景に、不作・天候不良・戦争などによる自己救済の社会であったことにも起因している。2024/04/17
Humbaba
2
中世では借金の利率に制限はなかったものの、利子を最大でも元本の二倍までに制限するなどの方法で債務者保護を行っていた。2009/04/06
ヨシ
1
中世社会において「借金」はごく自然なもので生活に不可欠な存在であった。それ故に債務者を保護する仕組みが整えられており、一見高利に見えても「一倍」以上にはならない、利息には時効が存在するなど。中世金融と比較して現在の金融が債権者保護ばかりで債務者が保護の対象にされていないことを批判する。2021/03/31