内容説明
日本海軍の軍人。郷里新潟県長岡の負けじの気風を糧に海軍士官となる。いち早く航空戦の時代を予見し、連合鑑隊司令長官として真珠湾作戦を発案・実行するが、鑑隊決戦の伝統は独創的な発想を許さなかった。ミッドウェー海戦後の劣勢を挽回できぬまま、ラバウル前線を視察中に戦死する。太平洋戦争の敗因を検証し、歴史の中の名提督の実像に迫る。
目次
第1 山本のおいたち(長岡に生まれ育って;海軍兵学校への入校;青年海軍士官;山本家の名称継承と結婚)
第2 第一・第二ロンドン軍縮会議(ワシントン会議;第一次ロンドン軍縮会議;第二次ロンドン軍縮会議予備会議)
第3 海軍航空隊と海軍航空本部(アメリカ留学;海軍航空への転換;海軍航空本部)
第4 海軍次官と連合鑑隊司令長官(海軍次官;連合鑑隊司令長官)
第5 太平洋戦争(日米開戦と真珠湾奇襲作戦;珊瑚海海戦とミッドウェー海戦;島嶼戦と基地航空戦;山本のラバウル進出;山本の戦死)
著者等紹介
田中宏巳[タナカヒロミ]
1943年生まれ。1974年早稲田大学大学院博士課程修了。元防衛大学校教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Kiyoshi Utsugi
37
田中宏巳の「山本五十六」を読了しました。 著書は1943年生まれ(戦後生まれの方)で、防衛大学校の教授であった方です。2010年出版です。 山本五十六関連の本はいくつか読んでいますが、戦後生まれの方が書いたものは初めてかも。しかも防衛大学校の教授なので、現在の専門家と思われる方が書いている。 そんなこともあってか、厳しい見解も書かれています。ただ、全てを崇め奉るのではなく、これが真実だったのかもなと思わせる作品でした。2023/05/04
MUNEKAZ
15
山本五十六の評伝。朝敵・長岡藩出身ながら海軍のトップまで上り詰めた努力と、一早く航空戦の重要性に気づいた先見性を高く評価。しかし旧来の艦隊決戦思想を捨てられなかった点や「島嶼戦」という新しい形態の戦争に対応できなかった部分を厳しく批判し、ひいてはその根本にある海軍の硬直した官僚制にも目を向ける。他にも日独伊三国同盟に反対したというのも、戦後にできた作り話と一蹴。山本の伝説や顕彰を冷静に批判する内容は面白く、また著者が指摘するように、なぜ山本が「英雄」として語られ続けたのかというのも興味深い話題だと思う。2021/07/05
Toska
10
山本五十六の脱神話化を目指しながら、一方的な批判に偏ることもないバランスの取れた好著。彼の持っていた新しい部分と古い部分を分かりやすく説明してくれる。本人の能力や人柄のみならず、それを育んだ一族のルーツ、家庭、教育、海軍、さらには当時の国際情勢まで幅広く取り上げられ、読んでいて得るところが多い。とりわけ、ワシントン軍縮条約に対する日米海軍のスタンスの違いは、もろに両海軍のあり方を象徴していると感じた。この部分だけでもお勧め。2022/07/17
ジュンジュン
10
山本五十六はなぜ、国に勝利をもたらせなかったのに、名将と言われるのか?本書はここからスタートし、海軍軍人としての独自性と限界、ひいては海軍の旧態依然とした体制をも問う。航空機の可能性にいち早く気付く先見性を持ちながら、空軍独立に反対したり、海軍伝統の艦隊決戦主義に縛られていた。そして、ミッドウェー以後、新局面「島嶼戦」(島の確保するには陸海空三軍が連携しなければ難しい)に対応できず、急速に存在感を失う。そもそも、柔軟性を失った巨大組織のなか、個人の力ではどうすることもできなかっただろう。2021/11/04
電羊齋
6
山本五十六につき、戦中戦後に行われた顕彰と伝説化を排し、史料に基づく客観的記述に徹した伝記。著者は、いち早く航空戦の時代を予見した山本の先見性・独創性を評価しつつも、艦隊決戦の伝統を打破できず、かつ海軍軍人の旧来の思考法からも完全には脱却できなかった山本自身の限界にも目を向けている。自分も幼少の頃から戦記物の本、映画・テレビドラマ等で「英雄」・「名将」としての山本五十六像を刷り込まれてきただけに、本書の客観的記述からは得るものが多かった。2014/06/28