内容説明
故郷の記憶。それは、甘美な記憶であり、郷愁をさそうが、同時に傷ましい記憶でもある。都市空間のなかで展開される、故郷の記憶をめぐるドラマが、故郷の数だけ、いやひとの数だけ展開される。なぜにひとは故郷にこだわり、故郷を論ずるのか。一九世紀後半、故郷をあとにした青年たちの都市体験からつむぎ出される、記憶と空間の文化史。
目次
1 「故郷」の空間
2 同郷会の世界
3 構成される「故郷」
4 「故郷」の実体化の試み
5 都市空間のなかのアイデンティティ
6 石川啄木の経験
7 「故郷」の物語のゆくえ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ハチアカデミー
13
近代日本において「故郷」という想像の共同体がどのように形成されてきたのかをさぐる一冊。それは言語によって構成され語られることによってたちあらわれる空間であると定義し、残された言説からその成立過程を考察する。都市という中央が生まれることで、相対的に望郷という眼差しが生まれる。さらに、都市の内外を移動することでそれぞれの場所が比較される。歴史(偉人)・山川(場所)・言語(方言)を共有することによって、同郷人の結束は強まる。石川啄木扱う後半からは、故郷と都市の狭間でアイデンティティが揺らぐ近代人の姿が見えてくる2014/07/12
gecko
7
近代日本の都市空間において語られる「故郷」の言説を読み解く。「故郷」とは、くり返し語られることによってたちあらわれる概念であり、生地の人びと=「われわれ」が共有する歴史的時間と地理的空間、言語によって醸成される感情にもとづく共同体であるとする。「故郷」を実体化する試みとして、実業・衛生・教育の領域があり、災害や戦争などの出来事もまた「同郷」を具象化する。「故郷」の発見は「都市的なるもの」への直面を契機としており、人びとは両者を関係的に内面化した「複合的アイデンティティ」を形成してきた。関連文献も読みたい。2022/01/15
Tatsuya Hirose
2
【「故郷」という物語】 19世紀末から20世紀初頭にかけて、文明化の開始、産業の本格化と共に人々は移動を一挙に本格化。移動に伴い、生地やそれまでの居住地が「故郷」となり、同時に「故郷」を語る現在の場所が自覚化される。こうして「故郷」と「都市」がともに発見・意識化された…。というのがザクっとした内容。「いったん『故郷』の『外部』に出、都市/『故郷』の関係を学習し、アイデンティティを複合化した者にとっては、あらためて『故郷』に直面するとき、そこに距離を感じざるを得ない」という箇所は「うーむ」と唸った。2021/07/23
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