出版社内容情報
市井の人の証言は,歴史的な資料(史料)としてどのような意味で信頼に足るのか。社会科学が各国・各領域で続けてきた諸論争をフォロー,膨大な学的蓄積と著者自身の実践を通してオーラルヒストリー/口述史を捉え直し,方法論として説明可能なかたちで位置づける。
内容説明
市井の人の証言は、史料としてどのような意味で信頼に足るのか。社会科学が各国・各領域で続けてきた諸論争をフォロー、著者の実践を通してオーラルヒストリー/口述史を学問的に捉え直し、方法論として位置づける。
目次
序章 オーラルヒストリーを研究する
第1章 オーラルヒストリーという営み
第2章 幻の「転回」:方法論の変化に関する諸言説
第3章 内容と方法:オーラルヒストリーと相互行為
第4章 事実がわからないとき:過去の記述と社会調査
第5章 過去が問われるとき:旧日本軍性奴隷問題をめぐる証言の聞き方について
終章 オーラルヒストリーで社会学する
著者等紹介
朴沙羅[パクサラ]
ヘルシンキ大学文学部講師、社会理論・動態研究所研究員。京都大学文学部卒業。京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。博士(文学)。立命館大学国際関係学部准教授、神戸大学大学院国際文化学研究科講師を経て、現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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buuupuuu
18
オーラルヒストリー研究は70年代から80年代にかけて「転回」があったとされており、そこでは「主観性」や、語り手と聞き手の相互行為というものに注目が集まったのだという。ただし著者の見るところでは、実際の研究においてそのような転回は起こっておらず、あくまで方法論を語る言説のレベルでの話のようだ。この「転回」は数量化など科学的客観性とされるものへの反発や調査における権力性への批判などを背景にしている。著者は「転回」に距離感を懐いている。語り手の体験にしろ語りの場面にしろ、状況に埋め込まれているということだろう。2023/06/25
二人娘の父
10
素晴らしい!正直、専門書なので、素人の私が著者の展開する議論に何か言えることはない。だが、読み物として(特に4章以降)非常に面白いし、問題の設定の仕方がとても興味深い。素人なりに意訳すると、記憶にもとづく語りを、調査する側が信頼すべきであり、そのための研究の「手前にあるもの」をしっかりと抑えることが大事。手前にあるものとは、事件や史実への知識であり、認識ともいえる。事例にあがっている「吹田事件」自体も興味深いし、それを語る伯父の言葉や記憶への接し方に、優しさを感じて、とても良かったと思う。2023/06/15
Go Extreme
1
語りを歴史の全体性に位置づける 語る・聞く歴 記憶:絶えず集合的に再構成される 社会的記憶・想起の文化 歴史社会学・歴史の社会学 歴史=側面図+正面図 主観性・転回 インタビュー中の相互行為 3種類の集団・経験:下からの歴史/エリート・オーラルヒストリー/真相究明・エンパワーメント インタビューデータ:ドキュメント→テキスト 正確さ→ナラティブ的な構築物 主観性・間主観性 ユークロニア:架空の出来事 シンボリック相互作用論 代表性・人数・類型化と一般化 実証vs構築主義 伝記的幻想・意味を人工的に作り出す2023/05/05
阿部
0
気合いを入れて読んだ。結論だけでなくその過程でのさまざまな指摘が、インタビューに関わるものとして非常に示唆に富んでいた。人が過去を語るとはどういうことで、それを聞いたり書いたりするとはどういうことなのか、研究史を辿りながら徹底的に検証していく。歴史を書く営みもまた歴史の一部として、社会学的に考察すべきものだというのは、「本当か嘘か」という安易な二項対立に陥らない知の執念で、なんだか重めのボディブローをくらったようだった。なぜ私は過去の話を聞きたいのか、という自己検証にも有用な一冊。かなりヘビーだけど。2024/02/06