内容説明
ベストセラー『荒野へ』『空へ』で知られるジャーナリスト、ジョン・クラカワーの原点がここに。ビルの高さの大波に乗るサーファー、火星の謎を解くために北米最深の洞窟に潜るNASAの研究者、エベレストで命をかけて酸素ボンベを運ぶシェルパ、ユタ州の荒野で行なわれる矯正キャンプに送り込まれた子どもたち、70歳近くなってもなお、未踏ルートに挑み続ける伝説の登山家。それぞれの理由を胸に極限に挑む人間は、荒ぶる自然と対峙したとき、何を考え、どう行動するのか?徹底した取材をもとに展開する、渾身のルポルタージュ。
目次
マーク・フー、最後の波
火山の下で生きる
エベレストにおける死と怒り
火星への降下
転落のあと
北極圏の扉
愛が彼らを殺した
穢れのない、光に満ちた場所
フレッド・ベッキーいまだ荒ぶる
苦しみを抱きしめて
著者等紹介
クラカワー,ジョン[クラカワー,ジョン] [Krakauer,Jon]
1954年、アメリカ・マサチューセッツ州生まれ。ノンフィクションライター、ジャーナリスト。アメリカの代表的アウトドア誌『アウトサイド』での執筆活動で知られ、代表作に全米ベストセラー『荒野へ』(1996年)などがある。アラスカのデビルズ・サム単独登攀などの記録をもつクライマーでもある
井上大剛[イノウエヒロタカ]
翻訳者。翻訳会社、出版社勤務を経て独立(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
R
40
自然に関するコラム集であるのだが、自然を通してアメリカとアメリカ人が見えてくるような読み物で、大変面白かった。自然をどう扱うかどう扱われているかという話や、変わり者のアルピニストの生きざま、新興宗教めいた更生施設の話など、読み応えのある面白い話ばかりなんだが、書かれていることの背景にアメリカという国が見えてくるような文化や思想が混じっていて、そこが非常に面白かった。時には警告であり、共感や感動でもありといった感じで、軽く読めるのに含蓄ある読み物だと思った。2023/05/18
マリリン
38
印象に残ったのは、日本の登山家の死が重なった「マーク・フー最後の波」、大噴火の様に驚嘆し唖然としたものの、その土地に住み続けることに妙な納得感を持った「火山の下で生きる」、シェルパに対しる酷過ぎる扱いに怒りを覚えた「エベレストにおける死と怒り」、開けてはならないと思った「北極圏の扉」、ずさんな管理の荒野療法は、思うところがあり検索し、パタゴニアとブラックダイアモンドの意外な関係に驚いた「愛が彼らを殺した」。歳を重ねても個性的な生き方を貫く姿勢に惹かれた「フレッド・ベッキーいまだ荒ぶる」も面白かった。 2024/01/22
yyrn
28
人はなぜリスクを冒してまで自然に近づこうとするのか?▼超ビッグウェーブを求めるサーファーたち、爆発したら一たまりもない活火山のふもとに暮らす人々、登山者急増と温暖化による氷河融氷で年々危険度を増すエベレスト登山、そのしわ寄せがシェルパたちに来ている現実、火星探査の意義を求めて外部と遮断された地下深い洞窟に潜る研究者たち、ロッククライミングスクールでの転落死や自堕落者たちの更生を目的とした荒野でのサバイバル教室で防げたはずの(無知による)熱中症死などの責任問題とその後の訴訟の顛末(不注意で負ったケガでも⇒2023/11/16
one_shot
28
読み友さんより。著者が「荒野へ(’95)」「空へ(’96)」などの傑作で売れっ子になる直前、80〜90年代に発表した粒ぞろいの作品集。中でも95年に「アウトサイド」誌に発表された『愛が彼らを殺した』は、麻薬や暴力など非行を短期間で効率的に治療するとしながら繰り返し死者を出している荒野療法プログラムの暗部に迫っている。著者はそのキャンプに実際に随行しつつ、その問題点の根深さを指摘する。この50頁の中に「荒野へ」「空へ」「信仰が人を殺すとき」へ連なるテーマが既に埋め込まれているからクラカワー好きには堪らない。2023/04/21
Sakie
19
あちこちの媒体に書いた初期のノンフィクション記事集。調査を基に書かれたクラカワーのノンフィクションが面白いのは「荒野へ」で承知済みだ。事実をスマートに記述するだけではなく、クラカワー自身の実体験が裏打ちし、取材対象に重ね合わせてみせることで、よりリアルに想像させる。苦難があるからこそ魅力的で甘美な体感が得られる活動は、人口が増えればそのぶん自然破壊や危険を増すものでもある。この本に採録された文章には、責任のなすりつけ訴訟や詐欺めいた荒野療法など、アメリカ特有の諸問題も取り上げられていて興味深かった。2024/08/24