内容説明
1902(明治35)年1月、雪中訓練のため、青森の屯営を出発した歩兵第5連隊は、八甲田山中で遭難、将兵199名を失うという、歴史上未曽有の山岳遭難事故を引き起こした。当時の日本陸軍は、大臣報告、顛末書などで、猛烈な寒波と猛吹雪による不慮の事故として葬り去ろうとしたが、その事故から62年後、最後の生き証人だった小原元伍長が証言、真実の一端が明らかにされた。新発見の事実を積み上げながら、隠蔽し、捏造された「八甲田山雪中行軍」の真相と真実に迫る。
目次
第1章 現代の八甲田演習
第2章 遭難前史
第3章 行軍準備
第4章 行軍開始
第5章 彷徨する雪中行軍
第6章 捜索と救助
第7章 三十一聯隊の田代越え
第8章 山口少佐死因の謎
著者等紹介
伊藤薫[イトウカオル]
1958年、青森県に生まれる。元自衛官。青森の第5普通科連隊、青森地方連絡部などを歴任。当時の青森や津軽の事情にも通じている。2012年10月、3等陸佐で退官。その後、八甲田山雪中行軍の事実を知りたくて調査を始め、その成果が、『八甲田山 消された真実』に結実した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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へくとぱすかる
66
氷点下の雪山へ行くというのに、足袋の上にわら沓をはくだけ。ありえないほどの軽装備。目的地への道をだれも知らない。地図も持っていない。リサーチも不十分。映画(未見です)とはイメージも違って、計画通りに行っても遭難するだろうと、冬山の素人でも思う。おそろしいのは上層部が、報告書で都合の悪い点はすべてウソを書いていること。現場の人間に責任を負わせるやり方は、日本の「組織」にずっと今でも続いているのだから、やりきれない。1世紀以上昔の隠された真実を明らかにする著者の文章は、まさに何度も読み返したい価値がある。2021/11/15
ヒデキ
45
「八甲田山事件」のイメージが、覆る一冊でした。 映画や小説では、感動を描くドラマになっていたのを資料から、たんたんと見ていきます 一部の方の虚栄心から起きた惨事であって その隠ぺいされた部分も資料の矛盾から探していきます。 自衛隊員だった著者の方が描いているので 組織としての軍隊では、こういった幹部の行動ってあるのかな?と思って読んでいました。 2021/10/31
さきん
29
ライバル意識というのは、良い方向に働くときとひたすら悪く働くときがあるんだなと感じた。岩手側の雪少ない出身者が多く、隊長クラスは士族2世で能力主義に則っているとは言い難く、事前調査も雪が少ない中で行われと悪い予兆が重なっていった。日露戦争時に装備の改善という意味でこの事件は多少報われたが、当時の上官への処罰が甘いという構造はそのまま太平洋戦争へつながっていく。2022/09/10
Satoshi
14
新田次郎の「八甲田山死の彷徨」は少年時代に読み、大学生になり、映画「八甲田山」を見た。双方とも大好きな作品であり、映画は複数回見ている。本作は八甲田山の雪中訓練経験者である元自衛隊員が生存者の証言等を根拠に検証している。映画のような物語性は無いが、これが真相なんだろうなと思いながら読み進めた。準備不足、過大評価された隊長、天皇上奏と虚偽の意味付けをされた訓練、上官への甘い処分など日本陸軍の問題点が溢れている。犠牲者達は戦死ではないとのことで靖国神社に奉納されなかった。解説は映画評論家の春日太一さん。2023/06/06
藤井宏
10
日露戦争勃発の2年前の1902年に起こった将兵大量遭難事故の背景を追ったノンフィクション。旭川で日本最低気温-41℃を記録した大寒波と時が重なるが、本書では気象より人災の側面が本件に大きく影響したとする。ライバルである弘前の31連隊が田代越えをするということで、準備不十分に雪中行軍、露営を命令した連隊長。日清戦争で防寒の必要性を認識し経験者がいるのに経験を共有しない。行軍予定地域の地理を知らない、地図もない。予定日に戻らず連隊の遭難の可能性があるのに、屯営に待機しないトップ。2025/06/13
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