内容説明
悪天候の鹿島槍ヶ岳で遭難した三人パーティ。ひとりが死亡し、生還したメンバーがその顛末を山岳雑誌に寄稿した(松本清張『遭難』)。スイスで滑落死した友人の墓前に供えられていた首の欠けたピッケル。それは友人たちからプレゼントされたものだった(新田次郎『錆びたピッケル』)。遭難の背後に潜む、登山者の心の闇を描いた作品を馳星周が厳選して収録。「登山者に悪人はいない」という人にこそ読んでほしい、異色の山岳小説傑作選!
著者等紹介
馳星周[ハセセイシュウ]
1965年北海道生まれ。横浜市立大学卒業。出版社勤務を経てフリーライターになり、1996年『不夜城』でデビュー。97年に同作で第18回吉川英治文学新人賞、98年に『鎮魂歌(レクイエム)不夜城2』で第51回日本推理作家協会賞、99年に『漂流街』で第1回大藪春彦賞を受賞。ノワールの名手として数々の作品を手がけ、近年は歴史小説や山岳小説も執筆(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
モルク
94
松本清張、新田次郎、加藤薫、森村誠一の大御所四人による山岳ミステリーアンソロジー。さすがでした。山岳それも遭難を扱っておりその筆力は圧倒的。実際にその場にいるような臨場感。加藤氏は初読みだったが魅せられた。選者の馳星周氏の極限状態を描くのにこれほど適した舞台装置はない。荒れ狂う自然のなか心の奥の深い闇を描いた作品というコンセプトに最適な4編。時代が古いがそれを感じさせぬほど圧倒され魅了された。2024/01/13
キムチ27
68
4点掲載。何れも山行の情景、息遣いが伝わってくる。新田氏のモノは異色な捻りの効いた佳作。北アルプスのソロは止めた事もあって淋しさもあって食いつく想いで読み終えた。いい思い出だけで終えるのは理想。しかし、山はそれを安易には許さない・・なんて心が凍ったのが正直なところ。男女関係の拗れを山行に刷り込ませる作品は他にも多いけれど『小説』の題材にはうってつけだなと皮肉めいて・・まさに闇/冥 加藤さん、お初だが壮絶な吹雪とラッセル、天を突く岩壁のシーンがリアル感たっぷり。森村氏作も短編の中に起承転結が収まりぞっと来る2022/10/24
まるほ
40
「山男には悪人はいない」この定説に真っ向から挑んだ“山岳ミステリー”。馳星周氏が4編を選ぶ。▼“登山”という極限状況を舞台に、その状況下での人間の“闇”をこれでもかと描写する。おもしろくないはずがない。どの話も緊張感がスゴい。▼松本清張の『遭難』は、遭難時の描写とともに、心理描写を実に迫真に描く。そして唖然とさせられる結末。最後の一文もよく考えると実に意味深。▼新田次郎の『錆びたピッケル』はなんともやるせない結末。他の2編も読みごたえあり。一気に読了してしまいました。▼これは自信を持って“お勧め”です。2019/06/11
ぽろん
40
闇冥とは、言い得て妙。探偵気取りで犯罪を暴いてもハッピーエンドになるとは限らない。誰も見ていないと思っても、完全犯罪とはいかない。さすが大御所作者様方。面白かったです。2019/04/20
けえこ
17
山岳小説ミステリー集。 加藤薫は松本清張作品に対するオマージュ作品。タイトル「遭難」主人公名「江田」どちらも引用。 消息不明の作家さんらしい。巻末の「作品承継者をご存じの方ご一報ください」に興味を持った。2022/08/15