内容説明
娘と父のおかしな対話「夏の湖」をはじめ、かつて辻まことが過ごした西湖畔での共同生活「小屋ぐらし」などを綴った辻まことの代表的な画文集。独自の批評眼をもちながら、山の人々との温かな交流、次々に登場するオカシな人物や愛すべきケモノたち…。そんな辻まことワールドが広がる。13編の文章に、美しい色刷り挿画16枚、単色挿画37枚入りの豪華版。
目次
夏の湖
小屋ぐらし
秋の彷徨
峠のほとけ
一人歩けば
絵はがき三通
キノコをさがしに行ってクマにおこられた話
はじめてのスキーツアー
三つの岩
けものたち
白い散歩
三本足の狐
ある山の男
著者等紹介
辻まこと[ツジマコト]
1913年、福岡県生まれ。山やスキーをテーマにした画文が多く、画家、エッセイスト。ダダイストの辻潤を父にもち、15歳のとき、父親にともなわれて、1年パリに滞在し、帰国後、広告会社に入り絵描きの仕事をする。1958年山の文芸誌『アルプ』に「ツブラ小屋のはなし」を寄稿、以後しばしば同誌に山の画文を発表。1975年、62歳で逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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にし
43
辻まことさんの画文集。アルプの終刊30周年記念で再構成されて出版された本です。初版は48年前、山との距離感が今とはかなり違います。生きる知恵、獣との共存、『文化が自然を前に無言の批判を受けて照れている』なんて言葉が辻さんらしい。山を愛した人だったんだなぁ。彩色挿画の素朴な色の美しさ。これが辻ワールドです。2014/04/09
秋 眉雄
22
辻まこと(1913年9月20日-1975年12月19日)は、日本の詩人、画家である。山岳、スキーなどをテーマとした画文や文明批評的なイラストで知られる。日本におけるダダイスムの中心的人物で餓死した辻潤(天狗になってアイキャンフライ)と、婦人解放運動家・無政府主義者・作家・翻訳家・編集者であり、潤とまことを捨て大杉栄の愛人となった伊藤野枝(大杉と共に憲兵により扼殺)を両親にもつ。数度の結婚離婚歴の中には武林無想庵の娘・イヴォンヌもいた。病気を苦に自殺。(以上、Wikipediaからほぼ丸写し)2019/05/23
駄目男
16
辻まことは大正二年に生まれている。父はダタイストで有名な中心的人物で餓死した辻潤で、母は言わずと知れた伊藤野枝。野枝が大杉の下へ走って辻と離婚した時、まことはまだ3歳だった。ということは大震災後に野枝が憲兵隊によって殺害された時点では10歳になる。私は放浪生活の果て餓死した辻潤の評伝を読んだことがないから、どのような経緯で餓死したのか、またその間、まことがどうしていたのかまったく知らない。その後、まことは長く生きたが昭和55年、首吊り自殺を遂げ62年の生涯を閉じた。2021/12/11
あきあかね
15
初めて読んだ著者の山の画文集。素朴なタッチの中に味があって、しんしんと雪が降り積もる山峡の家や湖畔に面した夕暮れのテラス、リュックを枕に黄葉の上でのまどろみなど、どの絵もあたたかく懐かしい。読む前は、著名な山の登攀記のようなものをイメージしていたけれど、具体の山の名はあまり出てこず、謎めいた山男や三本足の狐といった、どこか夢幻的な雰囲気が通底する。山を登るというよりも、山という非日常の空間、「異界」に身を浸すことの魅力をユーモラスな語り口で伝えてくれる。森の香り、動物の囁き、風の流れが鮮明に感じられる。2025/03/29
Tenouji
7
素晴らしい。例えば、多くの人は走る理由を「達成感」に見出そうとする。確かにそういう面もあるのだが、実はフト「ある瞬間」が訪れるのだ。景色も自分も一体となり、静止しているようで、全てが動いている知覚。その時に強く感じるのは「自由」。恐らく、辻まこと氏は、その感覚を知っていたんだろうな。2015/05/23