出版社内容情報
幾多の夷狄を撃退したテサロニケの守護聖人デメトリオスは、12世紀末、ブルガリア再独立のシンボルとなって以来、バルカン半島に覇を競う諸勢力の争奪の的となった。各国の政治的思惑と宗教的情念が交錯する激動の中世バルカン史を追う。
内容説明
幾多の夷狄を撃退したテサロニケの守護聖人デメトリオスは、12世紀末、ブルガリア再独立のシンボルとなって以来、バルカン半島に覇を競う諸勢力の争奪の的となった。各国の政治的思惑と宗教的情念が交錯する激動の中世バルカン史を追う。
目次
序章 一枚の絵の謎
第1章 聖デメトリオス信仰の生成と発展
第2章 聖者はタルノヴォに去りぬ?
第3章 聖都テサロニケの反撃
第4章 テサロニケ皇帝テオドロス・ドゥーカスの挑戦
第5章 イヴァン・アセン二世と王都タルノヴォ
第6章 テサロニケ セルビア人の心の都
終章 オスマン支配下の「和解」
著者等紹介
根津由喜夫[ネズユキオ]
1961年群馬県生まれ。金沢大学法文学部史学科卒業、京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得満期退学、博士(文学、京都大学)。現在、金沢大学人間社会研究域歴史言語文化学系教授(人文学類担当)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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MUNEKAZ
13
テサロニケの守護聖人である聖デメトリオス。彼の受容を巡るビザンツ、ブルガリア、セルビアの角逐を通して、中世バルカン半島の覇権争いを描く。占領地の寺社を取り込むことで、自らの支配の正統性をアピールするのは、戦国日本でもおなじみなので、中世日本クラスタにも楽しく読めるかも。結局この3国は、オスマン帝国の下に統一されるのだが、バルカンの一体化が進んで図像の意味が希薄化したことにより、ブルガリア皇帝を刺殺する聖人像をブルガリア人が拝むという倒錯した様態になるのは面白い。全体的にやわらかい語り口なのも〇。2020/07/04
Toska
3
聖デメトリオス信仰の「舞台裏」から垣間見える動乱のバルカン史。ビザンツとブルガリアのみならずラテン帝国、セルビア、エペイロスまで関わってくる多士済々のプレイヤーたち。同じ正教圏でも、ロシアなどと比べると、南スラヴからビザンツへの距離感は恐ろしく近かったのだと改めて実感できる。とにかく面白い一冊でした。無理にくだけた感じにはしていないのに読みやすい文体も高感度が高い。2021/04/23
イツシノコヲリ
2
ビザンツ帝国史を専門とする著者がテサロニケで守護者として崇められていた聖デメトリオスを主題に中世の東欧史を明らかにする。読みやすくて良い。2025/05/06
Ohe Hiroyuki
2
「なぜブルガリアの父祖であるカロヤン王が、槍で刺殺されている絵がブルガリアにあるのか?」という謎を解きながら、テサロニケの守護聖人である聖デメトリオスを鍵に、10世紀から15世紀くらいのバルカン史を振り返る一冊である。▼バルカン半島というと、「複雑」だというぐらいの印象しかなかったが、本書を読んでより具体的に「複雑」であることが分かった。▼決して安くない本だが、レビューもそれなりの数がされており、関心の高さが伺える。ヨーロッパを理解するためにも、バルカン史の理解は重要と思われる。2020/12/24
イオンベイ
2
中世バルカンの強国だったビザンツ、ブルガリア、セルビアがいかにしてテサロニケの守護聖人デメトリウスを自国の信仰に組み込もうとしたかをえがく一冊。 この時代の史料・日本語の研究が乏しい中で、筆者の想像による考察も含まれてはいるが、この聖人がこれらの国々の政治的判断に少なからず影響を及ぼしてきたことが伺えるだろう。 書かれているように後世の聖デメトリウス受容に変化がみられたことは、オスマン帝国支配期の正教徒が一つの共同体(ミッレト)に押し込まれたことを思い起こさせ、そういった点でも示唆に富む一冊である。2020/09/16
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