内容説明
四七八年、倭王武は中国南朝の宋に遣使し、上表文を捧呈した。これは讃・珍・済・興・武の倭の五王と称される五世紀の倭国王の外交と内政の到達点をうかがわせる貴重な考察材料になる。倭国と宋との通交の様相、その背景となる朝鮮諸国との関係、記紀の記載との関係、また国際的要因が内政におよぼす影響や倭国の国家体制の形成過程など、この時代のさまざまな問題に言及しながら、倭の五王の人物像に迫る。
目次
倭王武の上表文
1 5世紀の倭国と東アジア(中国南朝との通交;百済と高句麗の戦争;東アジアのなかの倭国)
2 記紀の伝承と倭の五王(記紀の皇統譜;応神と仁徳;履中・反正と允恭・安康;雄略と葛城氏;雄略と吉備氏)
3 王権の成長と大王号の成立(府官制的秩序の導入;金石文にみる地方豪族との関係;宮廷組織の整備;渡来人の役割;「治天下大王」の成立)
4 百済の南遷と倭国のゆくえ(百済王余慶と牟大の上表文;高句麗の間謀;百済の南遷と倭国;加耶諸国と倭・百済;倭国のゆくえ)
著者等紹介
森公章[モリキミユキ]
1958年生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得退学。博士(文学、東京大学)。専攻は日本古代史。現在、東洋大学文学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
カラス
4
説をいくつも提示して話を進める著者の丁寧な筆致が印象深い、古代東北アジアの情勢を記述した本。日本だけでなく朝鮮に関する記述も多く、古代日本に関する知識よりも百済と高句麗に関する知識が身についてしまった気がするが、古代日本を語る上では、大陸と半島はかかせないということだろう。印象に残ったのは、五世紀においてすでに自国を中心とした天下観念が日本に芽生えつつあったらしいということを、「大王」号成立と共に説いた一節。2019/09/02
坂津
2
中国南朝と通交した倭の五王と5世紀前後の倭国、周辺諸国との関係性について、『宋書』倭国伝や記紀、稲荷山古墳出土鉄剣銘、江田船山古墳出土大刀銘などの金石文、『三国史記』などの朝鮮半島の史料に依拠しながら、実像を明らかにしていくリブレット。倭の五王を歴代天皇に比定することに慎重な河内春人『倭の五王(中公新書)』と異なり、本書では「倭王武=ワカタケル=雄略」と確定させて、親族関係から「済=允恭、興=安康」と比定する立場を採るが、定説ではない応神・仁徳同一人説も紹介するなど、多面的な解説が心掛けられている。2022/09/19
hr
1
『「宋書」倭国伝』の情報量の多さが素敵。2018/04/30