内容説明
衛生ということばも概念もなかった時代、感染症の流行は人びとにとって突然の、恐怖の対象であった。今日では交通機関が発達し、人とモノが移動しやすい。ある地域の風土病が、その流れで世界規模に「新しい感染症」として拡散している。それでも個人的に予防できる方法は、日常的に手洗いを心がけ、うがいをし、飲み水に注意するということである。これが、過去の感染症の流行から教えられたもののひとつである。
目次
花火と「手洗い」
1 近代先進国の産業革命と貿易活動
2 欧州「検疫」体制と西洋医学の受容
3 転換期の西洋医学と日本人の「不潔」
4 新政府発足後の西洋経験と医療行政の設計
5 衛生政策と外来伝説病のコレラ情報
6 コレラ「衛生の警鐘」と伝染病対策
7 改正条約の実施と伝染病の国際関係
著者等紹介
内海孝[ウツミタカシ]
1949年生まれ。早稲田大学大学文学研究科修士課程修了。専攻、日本近代史。現在、東京外国語大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Kouro-hou
28
開国と共に各種風土病も日本に来襲。特に多大な被害をもたらしたコレラと近代日本の衛生対策の歴史を纏めた本。明治初期に法定伝染病と伝染病予防法を公布、平成になってから変化した実情に合わせて感染症法が制定された。この分野で名高い野口英世や北里柴三郎も登場するが、岩倉具視や福沢諭吉、日本灯台の父ブラントンなど意外な有名人や海外軍医が駐留するきっかけになった生麦事件など多数衛生に絡んでいるのがわかって面白い。江戸医学と言えばオランダだったのが、次第に凋落してアメリカ、ドイツと入れ替わる過程も興味深い。基本は手洗い。2020/04/16
S.Mori
15
日本の感染病対策の歴史について書かれた本です。まったく知らなかったことが次々と出てきて、非常に面白く読めました。例えば日本に定着している手洗いは、明治時代にコレラが蔓延したことを受け、横浜の外国人の助言などを得て1877年に政府が国民に要請したものです。ダイヤモンド号のことは記憶に新しいですが、18世紀でも検疫が行われており、それが国外から来る伝染病を防ぐのに有効だったそうです。私が一番興味深いと思ったのは征韓論と伝染病の関係です。征韓論のきっかけになる元武士たちの不満をそらすために→2020/04/04
kenitirokikuti
11
幕末~江戸時代の疫病。衛生のための手洗い習慣は明治になって海外から広められたもの。また「衛生」ということばは『荘子』から▲コレラは日本では1822年に初流行。反対に天然痘についてはジェンナーの種痘により克服に向かう。種痘を受けていなかった孝明天皇は天然痘で亡くなった。睦仁親王(のちの明治天皇)は孝明天皇が発症したときに種痘を受けた▲。 BOOKウォッチの記事から→ https://books.j-cast.com/2020/02/19010926.html2020/04/29
keint
9
開国から明治期までの日本と海外における感染症とその対策(公衆衛生や医学)について概説されている。衛生の語源など面白く読めた。 ただ、コレラ流行が攘夷の原因ということでこの本に興味を持ったのだが、その点についてはあまり触れられていなかった。2020/08/17
海星梨
5
少しは歴史を勉強しようと思い、薄いので読みやすいですし、図書館にあるこのシリーズをとりあえず読破しようかと。大流行があってから下水道が整備されたヨーロッパ、そこから人を招来しているのにも関わらず、軍備拡張で衛生がおろそかになる新生日本。そのなか、衛生の文字だけが一人歩きして遊郭の性病対策へとつながっていくのかと思うと物悲しくなります。明治政府と国際関係のなかでの検疫が中心で、風土病の記載はなかったのが残念です。そちらに注目がむいたのは戦後であるということなのかな。2019/02/09