内容説明
北から南に連なる列島弧の上に日本は存在する。そして、ここには大きく二つの言語と三つの文化が成立し文化接触が繰り返されていた。北の文化の主体、それがアイヌ民族である。歴史のなかのアイヌ民族は、北海道を中心に、サハリン、千島、そして北東北に生活し、中継交易者として北の世界を結びつけていた。そのことは、列島史という枠組みのなかでは、アイヌ社会は松前藩との関係だけではなく、本州とくに北東北との地域的な関係と東北アジア世界の変動との関わりのなかに理解されなければならないことを意味している。列島弧における文化と社会のあり方を時という視点から問いなおしてみよう。
目次
1 アイヌ文化
2 東北アジアのなかのアイヌ民族
3 アイヌ民族と近世日本
4 シャクシャインの蜂起
5 クナシリ・メナシの蜂起
6 民族文化の否定から「臣民」化へ
アイヌ民族の軌跡
著者等紹介
浪川健治[ナミカワケンジ]
1953年生まれ。東北大学大学院文学研究科博士前期課程修了。専攻、日本近世史。現在、筑波大学大学院人文社会科学研究科助教授
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
翔亀
49
日本近世史家による通史。"民族"(エスニシティ)は主観的な要素もあるため扱いが難しいが、アイヌ民族をイオマンテ(熊送り儀式)などの宗教的儀式を手掛かりに同定することで、和人(日本人)側の文献から緻密にアイヌ民族の軌跡を辿る。この本の良さは、第一に和人VSアイヌ人の対立構造だけで捉えるのではなく、サハリンや千島、本州のアイヌ人を含めて東アジア史の枠組みで描写していること。第二に近世史専門だけあって、近世の交易史/経済史的な分析に詳しいことであろう。それにより私の知らなかった新たな日本史が迫って来て興奮した。2015/04/06
月をみるもの
12
ウポポイに行きたい。2021/05/08
kaizen@名古屋de朝活読書会
6
#説明歌 民族の軌跡東北アジアでの交流位置付け歴史の記録。 アイヌ民族の軌跡を、日本からだけでなく、東北アジアの中で位置づけようとしている。 アイヌ民族と、東北アジアの他の民族との交流の中で、他のいくつかの先住民族と同様の、 記録が十分でない歴史を示唆している。 アイヌ民族について勉強しはじめる最初の1冊として最適かもしれない。2008/05/01
コウヘイ
3
面白かった。「自然と共生する平和な狩猟採集民」というステロタイプのアイヌ民族のイメージを覆す、国家の枠を超えて活動する偉大な交易民族としてのアイヌの姿が垣間見えて興味深かった。日本との関係も、(時代を経るごとに従属的になるにせよ)一方的な支配ではなく、アイヌ民族も主体的に交渉したり、闘ったりしていたのだと分かった。ものすごい暴論だが、近代資本主義が勃興し、強大な国民国家体制が確立されるなか、領域国家の枠に収まらないアイヌ民族の存在が異物として浮かび上がり、ついに取り込まれてしまったのではないか。2022/04/12
後藤良平
3
色々な事がわかった。また、いかにアイヌのことを知らなかったかも。擦文に続いたアイヌ文化は、西暦1400年以降で本州で言えば室町以降。近代であることに驚く。12世紀にサハリンにアイヌが進出するが、そこは既に元に服属していたギリヤークが居た。元が既にサハリンに進出して来たとは。1600年代になると、元々は自由に下北半島まで往来し交易していたものが、松前藩によって対アイヌ交易が独占され、交易条件が非公平なものになっていく。そこから幕末、明治と一気に日本に取り込まれていく。なんとも悲しい。年間No.49購入。2021/04/26