内容説明
悪魔としてのドン・ジュアン、「父」の否定、ドン・ジュアンという貨幣と全面的交換の時代。17世紀フランスが生んだ傑作『ドン・ジュアン』の歴史的意味を、ポスト・モダン的状況を媒介として読み解く。近代のヒーローは死んだ。
目次
序章 自分のなかに歴史を見いだす
第1章 『ドン・ジュアン』のコンテクスト
第2章 ドン・ジュアンと〈世界〉の構造
第3章 ドン・ジュアン、ディアボリック
第4章 貨幣としてのドン・ジュアン
第5章 「父」にそむく者
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
seu
2
アンシャン・レジーム期におけるフランスの技芸(文学、演劇、舞踊)などと国家の関係を知るのに必要な前提知識やデータが豊富。国家アカデミーによる技芸と技術の簒奪という前提の理解は重要だ。 ドン・ジュアンの劇構成の分析も面白く、本書を通じて本作品が古典主義時代の演劇作品の中でいかに異色であったかが感得できるほか、文芸批評における着眼点や手つきにおいても学びになる点が多い。2024/09/15
たらら
2
近代における父=大きな物語がいかにして死んだか。その先駆けとしてのモリエール『ドン・ジュアン』を読む試み。父=神=王の三位一体の権力構造に対し、ドン・ジュアンは貨幣経済の原則と市場経済の限界を体現する──読解は丁寧で個人的には評価するし、仏文学生にとってもある種のお手本としてもいい、とは思う。歴史のフロンティアシリーズに文学者として切り込むという姿勢もよし。いまとなってはやや懐かしいポストモダンな試みだが、ポストモダンとは何だったのかを考える前史としても意味はある論考。2010/03/15