目次
第1章 聖なる家族群像(支配者たち;スーフィー・聖者たち ほか)
第2章 聖なる家族のはじまり(「ムハンマド一族」登場まで;「ムハンマド一族」の多義性 ほか)
第3章 聖なる家族をめぐる言説と制度(聖典における典拠;夢に依拠する逸話群 ほか)
第4章 聖なる家族遍在の舞台裏(自然増;母方からの血統 ほか)
著者等紹介
森本一夫[モリモトカズオ]
1970年生まれ。東京大学文学部卒業。テヘラン大学人文学部博士課程中退。博士(文学、東京大学)。専攻、イスラーム史、イラン史。現在、東京大学東洋文化研究所准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゲオルギオ・ハーン
22
『ムハンマド一族』というイスラム社会の独特な立場の人々についての研究をまとめた本。預言者の一族と書くと仰々しいが、特権階級というわけでもなく、町の相談役になっている人もいれば物乞いやバスの運転手をしている人もいて、どちらかといえばイスラムの町に必ずいる存在という印象。社会的な機能についてはなかなか掴みづらい。宗教的な面でいえば、彼らは死後天国行きが約束されている聖なる一族なので困っていたら助けてあげると良いとかいう程度でコミュニティの安定剤のような印象を持った。2021/03/17
ドウ
7
ムスリムたちの中に数多くいるムハンマドの一族を名乗る人々についての概説書。ムハンマド一族を社会的に承認し、体制がお墨付きを与えるようになっていたことと、ムハンマド一族の「社会増」についての章で、本当にムハンマド一族なのかの裁定の際、物証より複数人の証言の方が重視されたことが面白い。ウンマの判断は無謬というハディースのためだったのだろうか。ちなみにこのテーマで研究している人はほぼこの著者だけなので、これを読めば世界最先端の研究が分かる、ということになります(笑)2017/01/11
うえ
3
ムハンマド一族は「神によって罪という汚れから浄化された人びと…それでも罪を犯したムハンマド一族の者はどうなるのであろうか…たとえ罪を犯したにしても、彼らはあらかじめ赦されており、天国にはいることが約束されているという極端にもみえる議論がしばしば展開された」では現世での処罰は?「ハッド刑の執行はムハンマド一族にたいする「奉仕」であり…彼らが犯す罪が彼らの本性を汚すことはない」「ムハンマド一族の血統の主張はなにも王を名乗る人びとにかぎられた現象ではない…サッダーム・フサインもこの血統を主張していた」2015/03/21
の
2
ムハンマドの子孫の置かれた状況を、著者の現地フィールドワークから解き明かす。一口に子孫と言っても置かれた地位は様々で、一国の王や組織の幹部もいれば乞食や盗賊まで、ありとあらゆる階層の人間に「ムハンマドの子孫」がいると言ってよい。更にその「子孫」は血縁と家系図で表されるのは勿論、「ムハンマドに似た風貌」でも子孫と名乗れてしまう、非常に曖昧で興味深い風習がある。そうした「超科学」なことが平気で出来てしまうのが信仰の面白さ。著者の軽快な語り口もあり、中東文化の寛容さに触れられた気がします。2011/07/16
蟻
1
ムハンマド一族の血統に繋がる「聖なる家族」からイスラーム世界を紐解く。イスラーム権力者、スーフィー、ウラマー、各国王朝、イランのハメネイ師、かつてのサダムフセイン(後に取消された)も、アッバース朝だって、カーディリーもナクシュバンディーもみんなムハンマドの血統を主張している。男系血統でしか本来遡らないアラブ社会の伝統と、娘しか持たなかったムハンマドの血統の整合性に腐心する歴史、アリーの血統(シーア派含む)、奇蹟や聖者の歴史も横たわる。血統という視点でとても人間臭いイスラーム社会をあぶり出す不思議な作品。2016/07/18