出版社内容情報
結婚して間もなく新種の難病にかかり妻が倒れた。昏睡状態に陥った妻を連れだした俺は、とある農園に愛する妻を埋めた。それが彼女の遺言だった――。選考委員が驚愕した第9回『幽』文学賞短篇部門大賞受賞作。
内容説明
結婚して五年目の夏、植物性皮膚硬化症候群にかかり、妻の恵理が倒れた。昏睡状態に陥った恵理を病院から連れだした俺は、農園に恵理を埋めた。それが彼女の遺言だった。謎の人物から農園の存在を知った恵理は、自ら埋められることを望んだ。農園には同じような境遇の男が大勢おり、自分のパートナーを丁寧に「栽培」している。やがて熟した女性たちは、かくも美しく甘美な果実となる―。選考委員が驚愕した第9回『幽』文学賞短篇部門大賞受賞作を含む連作集。
著者等紹介
唐瓜直[カラウリナオ]
1985年、神奈川県生まれ。大正大学文学部卒業後、システムの開発・保守関連の業務に携わる。2014年「美しい果実」で第9回『幽』文学賞短篇部門大賞を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
青蓮
93
読友さんの感想とタイトルに惹かれて。植物性皮膚硬化症候群という奇病に罹った妻を農園に埋める夫。彼女は丁寧に「栽培」され、やがて美しく甘美な果実となるーー6編収めた連作短編集。読んでいて芳醇な果実の香りが漂ってくるようでした。かなり私好みの作品。此処に登場する果実を食べてみたいと思ってしまった。作品の根底にあるのはカニバリズムだけど、それはグロテスクなようでいて妙に幻想的。愛する者を「食べてしまう」という究極の愛も見え隠れする。そして「食べる」という行為はなんとエロティックなものだろう。どの作品も美味でした2016/12/10
あも
89
蠱惑の美。噎せ返る程に香る爛熟の美。女は、愛する男に向けて言う_私を埋めて、果実になったら食べて、と。ある奇妙な死病に罹患した女性を生きたまま埋めると、この世の物とは思えない味の果実を身の裡に宿すヒトの形をした植物になる。愛した女を埋め育て食べる男たち。静かに、奇妙に、倒錯と退廃が彩る官能。ここでしか味わえない果実がある。ここにしかない物語がある。熟れた果実にかぶりつく。柔らかい果肉、滴り落ちる果汁、夢中で喰らうその姿に淫靡さを感じないとは言わせない。情愛と欲望。逃れられない業。哀しい生き物、その名は人。2018/12/10
(C17H26O4)
67
小3の頃、友達の家で柘榴を初めて食べた(その家に柘榴の木があった)。ざっくりと割れた皮の中の宝石の様にきらめく粒粒。甘酸っぱさと同居する苦みや渋み。指と舌を染める赤。魔女の果物みたいだと思った。初めての味。凄く美味しくて夢中で食べた。女の体内に艶やかに生(な)った、えもいわれぬ香りと味のする果物を人々が恍惚と味わう描写は、わたしに柘榴の思い出を呼び覚ました。取り憑かれたように貪り食べる人の姿はおぞましく、生理的嫌悪感を抱かせる。だがこちらまで漂ってくるようではないか。濃厚で抗えないほどに甘く熟した香りが。2019/01/16
らむれ
50
山田緑さんの装画に魅かれて。お耽美なところがとっても好み。最初の一遍だけ、すごく綺麗な装丁の短編にして持ち歩きたい。2016/10/26
Akihiko @ VL
50
唐瓜直さん初読。読友のぽちさんからのオススメ本。幽文学賞短篇部門大賞受賞作。あらゆる面において、曖昧模糊な小説だった。先ず、良い意味で枠組みされない不思議なジャンルということ。ホラー専門誌主催による文学賞の受賞作だが、ホラーと言うにはあまりに美しく、幻想小説と言うには現実味を帯びた冷たさを持っている。一方で、読了感は腐敗臭のする甘い香りを仄かに遺していくもので、素敵とは言えずとも、魅惑で甘美な感覚を味わせてくれる。世界観が特殊な作家さんなので、今後も追いかけていきたい。2015/08/28
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