内容説明
オリヴァ・クロムウェルは、ピューリタン革命の英雄として、イギリス史上もっとも有名な人物の一人に教えられてきた。しかし彼の生涯は、革命の政治過程とあまりにも密着しているため、わかりにくい部分も多い。時として矛盾しているかにみえる彼の政治姿勢の根本にあったものはなんだったのであろうか。本書は革命の過程をたどりながら、彼がどのように出現し、どのように政治過程に関わっていったのかを概観する。
目次
歴史のなかのクロムウェル
1 革命までのクロムウェル
2 革命のなかのクロムウェル
3 アイルランド、スコットランド侵攻
4 安定を求めて
5 晩年と死
著者等紹介
小泉徹[コイズミトオル]
1952年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学。専攻、イギリス近代史。現在、聖心女子大学文学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
94
クロムウェルの生き方を通して英国の近代史が見えてくる本。一口で言えば、クロムウェルはキリスト教のプロテスタントの理想を政治の場で生かそうとした人だった。神の王国を現世に作りだそうとする試みは理想主義的だが、無理があると思う。彼の試みはアメリカの社会にもゆがんだ形で受け継がれて、この世界で様々な争いを引き起こしているような気がする。とは言え、クロムウェルには人間的な面もあり、軍を率いている時に兵士の一人一人を大切にしたそうだ。本書を通して浮かび上がってくる、クロムウェルの多面的な人物像が興味深かった。2018/03/28
MUNEKAZ
12
優れた軍事カリスマか、冷酷な独裁者か。今一つ掴みどころのないクロムウェル。そんな彼の生涯をコンパクトに知れてなかなか良い一冊。ラディカルなプロテスタントとしての面と、議会による統治を是とする政治に保守的な面が入り混じった複雑な部分を、手際よく紹介している。何度失敗しても議会による統治を試み、プロテスタント諸派の宥和に努める部分は、成る程彼が王なき国家のトップに収まった器量を示している。だが同時にカトリックに対する冷酷さやアイルランド統治の過酷さは、まさに狂信者の狭量。有能だが「信念」の人という印象。2025/03/12
中島直人
9
(図書館)この後の名誉革命と比べると後世への影響が、いまいち判然とせず、分かりにくい。また、この時代の、特にクロムウェルの信仰心の強さに改めて驚く。2021/07/04
ジュンジュン
6
個人的にクロムウェルとピューリタン革命の理解を難しくしていたものがようやく分かった。大体クロムウェル誕生(1599年)から記述が始まるので、内乱に至る過程がやや唐突な印象を受け続けていた。これをエリザベス一世の時代まで視野を広げてみるとどうだろう。エリザベスからジェームズ一世まではピューリタン(本書ではプロテスタント改革派)は社会の中心にいた。それが疎外されるのがチャールズ一世(革命で処刑)の時代。なるほど、彼らの意識に喪ったものへの執着があれば…。革命への原因は色々だろうが、僕的にこれが一番腑に落ちる。2020/01/11
うえ
6
「まったく誤った情報にもとづいていたものの、クロムウェルの頭のなかでは、アイルランド人は、つい昨日まで仲良くしていたイングランドからの移住者を、突如、虐殺した許すべからざる極悪人となったのである…のちに彼の生涯の汚点となるアイルランド人大虐殺の伏線となった」「国王軍には兵士の家族、娼婦など多数の女性が同行していたが、敗北の中で数百名が戦闘員とみなされて虐殺された…クロムウェルは…勝利の栄光は神のものであるとした…「神の摂理」の意識は、戦場における強みであると同時に、戦場の蛮行を正当化する役割をはたした」2017/03/01