内容説明
現代イスラームの思想は驚くほどに多様である。個々のテーマにかかわる主張の違いに着目すれば、イスラーム教徒は今日、分裂状態にあるといっても過言ではない。もはやイスラームが何を命じ、何を禁じているのかさえ、かならずしも明らかではなくなってしまった時代がイスラームの現代なのだ。本書ではそのような多様な主張が錯綜・競合する現代イスラーム思想の源流を、イスラーム思想史の伝統、また西洋近代文明への対応をめぐる十九世紀以降の思想家の営みのなかに探っていく。
目次
百家争鳴の近現代イスラーム思想
1 イスラーム思想史の伝統
2 初期イスラームの回復を求めて
3 西洋近代文明への対応
4 激動と混迷の二十世紀
著者等紹介
飯塚正人[イイズカマサト]
1960年生まれ。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。専攻、イスラーム学・中東地域研究。現在、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アルノ
5
大学の授業のテキストとして使用。現代のパレスチナのハマスまでのイスラーム思想の発展の歴史を記した書籍。 執筆されたのが2008年のためパリ同時多発テロなどを起こしたISILなどのイスラム過激派についての記述はないが多くのことを学べる良書。特に西欧の衝撃に対するイスラーム世界の対応、なぜキリスト教より優越し完璧な宗教のはずのイスラームが圧倒されてしまっているのかという問いの部分が興味深かった。ただ思想家の名前などの固有名詞は全く頭に入ってこないのが唯一の難点。2025/02/06
サアベドラ
4
近代から現代に至るまでのイスラーム思想史を大急ぎで辿る。大量に出てくる人物名に少々クラクラしながら読んだ。現代イスラーム世界に関する知識のなさを痛感。まだまだ勉強が足りない・・・2012/12/22
竹花 樒 - Shikimi Takehana
2
固有名詞が多く、基礎的な教養がある人向けに思われる。現代の「イスラーム世界」における正しい認識を持てたかな。基本的に全肯定されなければならない性質が文明の変革を拒み、近代西洋文明からの侵略が「遅れ」という劣等感を植えつけ、受容や反発という他文明への比較意識が生まれる。そこに現代イスラーム思想の源流としての変革の起点が「いま」と「むかし」の挟み撃ちで論じられていく。周辺諸国の近代化に伴って「従属民族」としてのムスリムの性質が変容していく様子を現代イスラームの源流から探求する一冊。2009/06/03
takao
1
ふむ2025/07/17
Omata Junichi
1
オスマン帝国史からのイスラーム思想史のお勉強。「復古主義的なスンナ派」と「権威主義的なシーア派」のような、自分のたいへん雑な理解が打ち砕かれる。その時代のイスラーム思想は同時代の課題への回答として立ち現れるのは当然なんだけれど、そんな当たり前のことにも考えが至らないのは、まさに自分の先入観&知識のなさのため。そして本書を読んで、シャリーア(法)を形成するためのイジュディハード(学問的努力)の根底にあるものが「人間の理性」であるという認識は、私たちがイスラームを見るときに必要不可欠な視点なんだと思った。2020/08/16