出版社内容情報
ヴァルター・ベンヤミン[ヴァルター ベンヤミン]
著・文・その他
鹿島 徹[カシマ トオル]
翻訳
内容説明
“危機”を前に、かれはなぜ“歴史”を問うのか―これまであまり顧みられなかった、1981年発見のタイプ原稿を底本に据えた新訳。他のバージョンの原稿を踏まえた評注を附し、未完の遺稿の新たな相貌を浮かび上がらせる。
目次
イントロダクション―時代・生涯・テクスト(執筆当時の歴史状況―コミンテルン人民戦線戦術と独ソ不可侵条約;自死にいたるまでのベンヤミンの軌跡―未定稿として遺されたテクスト;現存する複数の原稿について;参考資料―断章と先行翻訳)
「歴史の概念について」(「歴史哲学テーゼ」)
著者等紹介
鹿島徹[カシマトオル]
1955年生まれ。テュービンゲン大学哲学部博士学位取得。現在、早稲田大学文学部教員。哲学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ハチアカデミー
13
ベンヤミン「歴史の概念について」に対して、彼の生涯と、「歴史の概念について」執筆時の状況をまとめたイントロ、抽象的な表現の多いテーゼのひとつひとつ、一文字一文字を、丁寧に解説する評注からなる、「テクストをその奥行きにいたるまで読み解く」一冊。「歴史」はただひとつのテクストではなく、時代によって、場所によって書き換えられ、取捨選択された事実の連続体であり、また、実現されなかった可能性を持つものである。それも含めた歴史叙述の可能性が考察される。「歴史」の概念が揺らぐ危機の時に記されたテーゼはいまこそ重要。2015/09/16
空虚
9
あらゆる伝統の「遺産相続人」たる歴史の勝者は、出来事を「均質で平板な時間」を刻む歴史叙述にまとめ上げてゆく。特定の事象が因果的に結びつけられた大きな物語からは、入り組んだ世界を形作っているはずの無数の出来事が、零れ落ちてゆく。この「創られた伝統」を保管し寄与することで、歴史家が勝者に「感情移入」すること。例えば「抑圧された人々の伝統」が、大きな物語に回収されること、あるいは闇に葬られること。それをベンヤミンは「危機」と呼んだ。時の為政者、その歴史観に奉仕する歴史家は進歩史観で歴史を眺めているのだ。(続く)2016/01/28
きつね
7
過去いくつかの邦訳も出ているテクストについて、新しい翻訳底本にもとづく新訳とその何倍の分厚さもある評注。とくに良かったのは、 1.ヴァリアント間の比較、推敲過程に対しての仮説を呈示しながら、既訳と比較して訳文を説明している点。私も似たような草稿群と格闘している身なので、とても励みになる。 2.ベンヤミンがアドルノからの批判や、時局・検閲を意識して削った箇所・婉曲にした箇所などに逐一注釈をしてコンテクストを示している点。なぜ曲がりくねって抽象的な記述になっているかがわかると途端に読みやすくなる。 3.果敢に2016/03/20
孔雀の本棚
5
Encounter アレント『カント政治哲学講義録』より。 Scopes 進歩史観・歴史主義における因果関係で繋がった歴史(連続体)に対する批判。例外状態の否認、隠蔽・忘却の歴史の蘇り(メシアによる救済)=「あり得た過去」を連続体から爆砕して取り出す。史的唯物論の入子構造(弁証法的に止揚)。 Unclear Next Comments2022/08/10
兵頭 浩佑
1
『歴史の概念について』について、一人の幸福な読者が確かにいた事の証明を読むことができる。 アーレント手稿や各種タイプ稿等を横断的に吟味し、精読し、翻訳し、注釈し、訳語・訳文の解説をし、補足し、解釈し、援用までしてみせる訳者の手付きは、あるいは翻訳の翻訳、メタ翻訳と言っていい。 しかし、テクストを読者自身の中に「呼び戻す」この営みこそ、ベンヤミンが言うところの「翻訳」そのものではなかったか。 2020/01/08