出版社内容情報
故郷とのつながりを求めるためか、あるいは新天地での拠りどころか。異郷において紡がれた文化のありようを問う移民研究は、まったく異なる自然・文化環境に生きることがもたらす重要な問いかけをいくつも教える??それまでの経験のなにを優先しなにを後回しにするのか、新しい環境にどう適応しなにを拒絶するか、「日本性」をどう継承するのか、あるいは日系人はどう扱われ、どう対応するのか。
本書は、これらの問いをさまざまな土地と時代における具体的な事例から考えていくことを課題とした共同研究の豊かな実りである。
まえがき
第?部 記す
1章 藤田晃の未完小説『ツールレーキ戦時隔離所』から読み解く記憶(滝田祥子)
1 ツーリレイク隔離収容所と藤田晃
2 日記の分析
3 草稿の分析
4 書かれなかったことの分析歴史的事実と別作「帰還の季節」との比較
5 苦悩する記憶と書くという行為
2章 山城正雄の文学活動の軌跡??帰米二世の意義を問いつづけて(水野真理子)
1 帰米二世文学の到達点山城正雄の文学活動
2 山城正雄の人生と「帰米二世とは」の問い
3 山城の帰米二世としての位置、帰米二世文学の今後
3章 アルゼンチン開拓者の天命と洗礼??増山朗『グワラニーの森の物語』に迷い込む(細川周平)
1 森に始まる歴史
2 イエズス会が結ぶ薩摩とミシオネス
3 薩摩隼人とケルト人
4 殖民運動家、田中誠之助
5 大陸の聖なる心臓
6 選ばれた家族
7 移民・植民・殖民
4章 戦前ブラジル日本移民の記憶と歴史??半田知雄の少年期をめぐる記述から(ソアレス・モッタ・フェリッペ・アウグスト)
1 当事者としての移民史
2 トポスとしての少年期
5章 〈歴史〉を紡ぐということ??チリ移民・常川久太郎の書かれなかった「移民史」(赤木妙子)
1 チリ日本人移民史概説
2 「チリ移民史」を紡ぐ試み
3 常川久太郎死去後の状況
4 常川久太郎の歴史観
第?部 伝える
6章 日本人移民女性と日本語メディア??日本の婦人雑誌と日系移民新聞(一政[野村]史織)
1 移民メディアと女性をめぐる言説
2 投稿欄と女性
3 移民女性の中の読者と投稿者
4 日本語メディアと女性たちの「共同体」
7章 日系コミュニティのタウン誌としての仏教雑誌??草創期の『米国仏教』からみる仏教会の活動と役割(守屋友江)
1 日系仏教教団の海外布教
2 『米国仏教』の概要
3 仏教会における〈複数形の仏教〉
4 「仏教会会報」にみられる活動
5 在米日本人移民にとっての日露戦争
6 1910年代以降の動き
8章 比嘉トーマス太郎の「巡講」??戦時下米大陸における講演旅行(森本豊富)
1 比嘉太郎と米大陸巡講
2 比嘉太郎の生い立ち
3 全米「巡講」
4 巡講旅程
5 全米「巡講」の意義
9章 サンパウロのサムライ??戦前ブラジルの日本語連載小説エドワード・マック[細川周平訳])
1 新聞小説の生態系
2 『伯剌西爾時報』上の時代小説
3 歴史小説??1917~33年
4 実験と移行??1932~34年
5 新体制??1934~41年
6 グローバルな文学的生態系
10章 デカセギ文学の旗手でもなく、在日ブラジル人作家でもなく??日系ブラジル人のマルチクリエーター、シルヴィオ・サム(アンジェロ・イシ)
1 短命に終わったデカセギ文学
2 デカセギ小説を生んだシルヴィオ・サム
3 風刺画からゴールのイラスト本まで横断的な創作活動
4 孤独なジャンル開拓者
第?部 詠む
11章 アメリカを故郷にして柵に住み??川柳が詠む日系アメリカ人強制収容所(粂井輝子)
1 監督下の敵国語文学活動
2 収容所内の川柳活動概観『ユタ日報』と収容所新聞
3 ジェローム収容所鉄柵の中の生活、共同体の再生
4 問われる忠誠
5 ヒラリバー収容所再移送、再定住
6 一世の声を伝承する意味
12章 窓としての短歌??ブラジルから日本へ短歌を送ることについて(松岡秀明)
1 里帰りした短歌
2 ブラジルの風物を詠んで
3 ブラジル日系人の心情を詠んで
4 消えゆく詩形に寄り添って
5 ブラジルから日本へ短歌を送るということ
13章 「間」を生きた「日系」歌人??上江洲芳子の沖縄、ハワイ、カリフォルニア(高木[北山]眞理子)
1 歌集から歌人の人生を探る
2 上江洲医師の妻として渡布
3 那覇、そして東京
4 子どもたちの成人とアメリカへの移住
5 日米両国を生きた芳子の人生
6 日本人の心をもってアメリカに生きる
14章 『あるぜんちん日本文藝』を中心に??崎原風子論として(守屋貴嗣)
1 アルゼンチンへの移住とその記録
2 『あるぜんちん日本文藝』刊行時期
3 総合文芸同人誌としての存在
4 同人会員はアルゼンチン各地に
5 「コロニア」とのつながり
6 終刊への足音
7 崎原風子について
8 「辺境」での集大成
第?部 競う
15章 ブラジル日系社会における少年スポーツの役割??戦前期の少年野球を中心に(根川幸男)
1 海を越えるスポーツ
2 ブラジルへの野球の伝播および日系社会における受容と発展
3 徳育の手段としてのスポーツと銃後運動
4 ブラジル日系少年野球の歴史的意味
5 徳育としての野球に対する二世の反応の一例
6 移民・エスニック集団とスポーツ
16章 奉祝から記念へ??ペルー日系社会における「文化装置」としての運動会Undokai(柳田利夫)
1 天長節奉祝大運動会
2 日系社会の構造と運動会
3 「文化装置」としての運動会
4 戦後の運動会
17章 オリンピックと帝国のマイノリティ??田中英光「オリンポスの果実」の描く移民地・植民地(日比嘉高)
1 オリンピックを描く小説
2 田中英光と「オリンポスの果実」
3 1932年のロサンゼルス・オリンピックと日本
4 「オリンポスの果実」とアメリカ日系移民
5 「オリンポスの果実」と帝国の光、帝国の影
6 外地から帝国の影を読み直す
第?部 交わる
18章 ハワイ音楽と日系人??人種意識の変化と「ローカル音楽」の形成(早稲田みな子)
1 「ローカル音楽」にかかわる日系人
2 日系人は、どのようにハワイ音楽とかかわってきたのか
3 ハワイ音楽と人種意識
4 ローカルが共有する文化としてのハワイ音楽
19章 オパラ・カウカウからロコモコまで??ハワイの食文化の変容と日本人移民町(吉田裕美)
1 移民研究と食文化
2 プランテーションからヒロへ
3 西洋料理本と家庭の食
4 移民町での食生活
5 椰子島町水産加工業の発展と日本人移民
6 ベーカリーとマンジュウ
7 戦争の記憶と食
8 ローカル化とハワイの日本食の流れ
20章 日系人とマンガに関する考察(小嶋茂)
1 マンガの人気
2 移民史に関するマンガ
3 日系人に関するマンガ
4 日系人によるマンガ
5 日本語学習用のマンガ
6 日本・日系社会を越えたマンガ
7 日系人とマンガ、そのパワーと可能性
第?部 渡る
21章 「里帰り」三線??楽器の移動と積み重なる価値(栗山新也)
1 三線の独特な地図
2 三線を運ぶネットワークの形成
3 「里帰り」三線の軌跡
4 楽器の移動と積み重なる「履歴」のダイナミズム
22章 ふたつの憑依宗教体系の〈接合〉の象徴的意味??沖縄系ブラジル人というハイブリッドな主体の呪術宗教的創造(森幸一)
1 ブラジル最古のユタ
2 MNの人生史概観成巫過程との関連から
3 ウンバンダの「黄色化」と沖縄系ブラジル人という主体の創造
4 〈ウチナーンチュ〉という主体の創造
5 ふたつの憑依宗教の〈接合〉とその意味
23章 「ブラジル日系社会」の形態学??デカセギ代理店と邦字新聞社(佐々木剛二)
1 「ブラジル日系社会」とふたつのベクトル
2 デカセギ代理店
3 新聞社
4 ふたつの原理が交差する場
24章 帰国デカセギ労働者のリマ日系人社会に対する影響(スエヨシ・アナ)
1 ペルーからのデカセギ労働者
2 日秘文化協会
3 ラ・ウニオン総合運動場
4 日系人学校
5 帰国者の日系社会への影響
あとがき
索 引
細川 周平[ホソカワ シュウヘイ]
2017年3月現在 国際日本文化研究センター教授
内容説明
移民研究は、まったく異なる自然・文化環境に生きることがもたらす重要な問いかけをいくつも教える―それまでの経験のなにを優先しなにを後回しにするのか、新しい環境にどう適応しなにを拒絶するか、「日本性」をどう継承するのか、あるいは日系人はどう扱われ、どう対応するのか。本書は、これらの問いをさまざまな土地と時代における具体的な事例から考えていくことを課題とした共同研究の豊かな実りである。
目次
第1部 記す
第2部 伝える
第3部 詠む
第4部 競う
第5部 交わる
第6部 渡る
著者等紹介
細川周平[ホソカワシュウヘイ]
1955年生まれ。1988年東京芸術大学大学院博士課程後期課程修了、博士(人文学)。現在、国際日本文化研究センター教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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