内容説明
淡路島に生まれ、二二歳で故郷を出奔し、たちまち立身出世を成し遂げた高田屋嘉兵衛。商人として、また日露交渉の立役者として活躍したその生涯とはいかなるものだったのか。日露それぞれの史料を駆使し、その先見性、巧みな交渉手腕が培われた過程を解き明かす。
目次
淡路に生まれて
兵庫で高田屋創業
箱館への進出
東蝦夷地での成功
千島列島への日露進出
蝦夷地来寇事件
クナシリ東沖の抑留連鎖
カムチャツカの抑留生活
クナシリ島における日露交渉
箱館における日露交渉
高田屋嘉兵衛外交の成功の秘訣
淡路への回帰
時空をこえる嘉兵衛
著者等紹介
生田美智子[イクタミチコ]
1946年生まれ。1974年大阪外国語大学大学院外国語学研究科ロシア語学専攻修士課程修了、2002年博士(言語文化学、大阪大学)。現在、大阪大学大学院言語文化研究科教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Toska
3
いつの時代でも紛争を引き起こすのは容易いが、収束するためには大変な労力を必要とする。言語・文化・習慣・対外認識等々全く共通項がなかった当時の日本とロシアが、互いの努力によって紛争解決に至った事実の重要性は、どんなに強調してもしすぎることはない。このような現場に嘉兵衛の如き人物が現れた(巻き込まれた)のは天の配剤、歴史の妙と言うべきかもしれない。一方、日露両国に支配されながら、一面では境界を越える可能性を持っていたアイヌやイテリメンの人々の交渉への関わりも興味深いと思った。2021/05/29
あまたあるほし
2
イテリメン女性の話がとてつもなく興味深い。これが今まで指摘されてこなかったのが不思議だ。2012/04/29
マウンテンゴリラ
1
事実を忠実に辿った、いわゆる研究的視点からの評伝文学であり、作者の主観的な評価がほとんど顔を出さない著作であるにも関わらず、深い感動を覚えた。それは、紛れもなく高田屋嘉兵衛その人の人柄や、人物の大きさ、利他的な使命感などによる面が大きいが、彼と交流を持った人々、特にロシア人である、ゴロヴニン、リコルドらにも同様の魅力が感じられたことにもよる。現代に生きる我々に見られない、彼らの魅力はどこにあるのか、また、このような歴史に足跡を残せるような地位にある人物が互いに素晴らしい人格者であったということが、→(2)2014/11/26
wang
0
幕末蝦夷地での露西亜人との紛争解決に尽力した商人の人物伝。コミュニケーション能力の高さ行動力そして天下意識。裸一貫から大商人に成り上がり、しかも未知の外国と言語習慣の壁を越えて、日本人が苦手とする外交交渉により戦争の危機を回避して、話し合いにより双方の納得のいく結果に導いた手腕と、その覚悟がある人物。希有の存在。2012/07/13
tohoho
0
大黒屋光太夫の帰国嘆願が実り、ロシアの日本との通商要求が相まって、ラクスマン率いる初の使節団が根室に着いた時は、漂流民の引取りを行い、慇懃に通商は拒否する代わりに長崎への入港を認める「信牌」を渡すことで済んだが、その12年後に通商を求めて長崎に来航のレザノフ使節団に対しては、半年間待たせた挙句、通商拒否という結果となり、激怒したレザノフは蝦夷地来寇事件を起こし、ゴローニン事件の引き金を引いた。そのために拉致されたのが高田屋嘉兵衛であり、嘉兵衛という人物たるや、なんとも凄い。2025/03/25