出版社内容情報
「廃屋の物置小屋にも似たその小さなアトリエ(その片隅では過去の習作の残骸が古代の神像のように慄えていた)で、1956年秋、私は毎日不動の姿勢をとり、彼は血走った眼でたえず私の顔を見つめながら、描いては消し、こわしてはまた描き続けた。仕事は刻々に進歩したが、進歩するとは一層よく見えてくることだからそれまでの成果を破壊することであり、破壊し得るからこそ前進し得るのだ。何に向って前進するのかといえば、彼のヴィジョン、つまり見えるがままの私の顔に向ってである。見える限りでの私の顔(誰の顔でも同じだが)は、輪郭をもたず部分をもたず、鏡の中の像のような非存在であり、こえることのできない絶対の距離をへだてて虚空の中に一挙に出現している全体である」
(「ジャコメッティとともに」より)
友として、モデルとして重ねた濃密な時間の記録であると同時に、芸術家と哲学者による「見えている」ものをめぐる対話。
【目次】
I章 ジャコメッティとの対話
II章 ジャコメッティに関する様々なエッセイ
絵と現実
ジャコメッティと音楽
ジャコメッティ1959年
ジャコメッティと私の顔
ジャコメッティ1960年
ジャコメッティの挿絵本――詩集『無こそ秩序』のこと
ジュネの印象
ジャコメッティの故郷
ジャコメッティの位置
ジャコメッティとともに
消失と出現のあいだ
ジャコメッティの墓
III章 講演「アルベルト・ジャコメッティについて」――1982年6月16日、東京藝術大学にて
IV章 アルベルト・ジャコメッティの生涯と作品
略年譜
解題
編者あとがき



