出版社内容情報
予兆のなかに希望を見出し、露呈から身を守り、柔らかい「共‐接触」を希求する精神共同体。
《「霧のコミューン」は現実の場というより心の拠点であり、「生」を紡ぐための意識の拠点である。それはたんなる「生活」の拠点を超えるものである。それは隠された生の可能性がゆらぎながら生成する場であり、来たるべき生のいくつもの準拠点である。ささやかで柔らかな「世直し」の決意である。(…)この本は、異邦への旅の朝靄のなかから現われた細部の風景を描くささやかな日記から始まり、ヒロシマ・ナガサキの記憶の霧へ、アラブ民衆世界や沖縄のシマジマから聞こえるくぐもった声のざわめきへ、年若き者たちによる黙示録的な叛乱へ、戦火のかなたで閃く人間の意志の熾火(おきび)へ、そして生成の奥底に秘められた予兆の風景へと歩みを進めて行くことになった。手紙という呼びかけの形式が多用されているのも、見えざるものたちとの呼応を希求する心ゆえである。》(緒言)
戦争、パンデミック、気候変動、テクノロジーの暴走といった災禍に染められた現代社会へのエッセンシャルな批評から出発しつつ、荒れ果てた風景の彼方に広がる真の人間性の場を探究しようとした著者の思索のはるかな到達点。狭霧(さぎり)のなかで抵抗の力をためる、日々の心のコミューンへの熱きいざないの書。
内容説明
霧は、同時代の混迷から私たちの自由と幸福を守るための拠点である。分別だけで塗り固められていない、希望のくにへ。来たるべきコミューンへのいざない。
目次
Prologue 小鳥もカタルーニャ語でさえずる街で―バルセロナ 叛コロナ日記
1(負のメフィストフェレス―広島のバラク・オバマ;“対岸”からの思想的挑発―フアン・ゴイティソーロ追悼)
2(遠漂浪きの魂、震える群島―石牟礼道子の億土から;アジアのなかの沖繩―川満信一への手紙)
3(微気象のくにで―すべてのグレタ・トゥーンベリに;マスクの時代の仮面―問いつづける身体のために)
4(霧のなかのルイーズ・グリュック―寡黙な声のコミューン;“白い日”と歴史―戦火から遠く離れて)
Epilogue 霧のコミューン―生成と予兆
Coda 希望の王国
著者等紹介
今福龍太[イマフクリュウタ]
1955年東京生まれ。文化人類学者・批評家。東京外国語大学名誉教授。メキシコ、カリブ海、アメリカ南西部、ブラジル、奄美・沖縄群島などで広範なフィールドワークを行う。国内外の大学で教鞭をとり、サンパウロ大学客員教授、サンパウロ・カトリック大学客員教授などを歴任。2002年より奄美・沖縄・台湾を結ぶ遊動型の野外学舎“奄美自由大学”を主宰し、唄者・吟遊詩人として活動。詩誌『KANA』同人。主な著書に『ヘンリー・ソロー 野生の学舎』(みすず書房・讀売文学賞受賞)『宮沢賢治 デクノボーの叡智』(新潮選書・宮沢賢治賞/角川財団学芸賞受賞)など多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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