出版社内容情報
「私たち医療者にできるのは、依存症者が落ち着いて自分の今後を考えられる機会と情報を与え、彼らが自分を変えるための行動を起こしたときに伴走し、「それでいいんだよ」と応援することくらいしかない。たとえていえば、医療者ができるのは、海に?れている依存症者に対して「浮き輪」を──できれば絶妙なタイミングで──投げてやり、陸地のある方向を教えることだけであり、その「浮き輪」を自分の手でつかんで陸地まで泳いでいくのは、依存症者自身なのだ」
わが国の精神科医療では、派閥主義や利権争いによって「患者にとって無意味な」治療が、あたりまえのように行われている。著者はアディクション(嗜癖障害)臨床の中で、ときに無力感にさいなまれながらも、常に患者のためになる治療だけを考えつづけてきた。
「薬物依存症者には刑罰よりも治療を」と訴えつづけてきた著者は、依存症患者を適切に治療し減らすためには、メディアや社会も変わるべきだと主張する――人びとを孤立から救い、「安心して誰かに依存できる社会」を作ることこそ、依存症への最大の治療なのだ。
雑誌「みすず」の好評連載を単行本化。アディクション臨床の最前線で戦ってきた著者の半生記。
内容説明
ある患者は違法薬物を用いて仕事への活力を繋ぎ、ある患者はトラウマ的な記憶から自分を守るために、自らの身体に刃を向けた。またある患者は仕事も家族も失ったのち、街の灯りを、人の営みを眺めながら海へ身を投げた。いったい、彼らを救う正しい方法などあったのだろうか?ときに医師として無力感さえ感じながら、著者は患者たちの訴えに秘められた悲哀と苦悩の歴史のなかに、心の傷への寄り添い方を見つけていく。同時に、身を削がれるような臨床の日々に蓄積した嗜癖障害という病いの正しい知識を、著者は発信しつづけた。「何か」に依存する患者を適切に治療し、社会復帰へと導くためには、メディアや社会も変わるべきだ―人びとを孤立から救い、安心して「誰か」に依存できる社会を作ることこそ、嗜癖障害への最大の治療なのだ。読む者は壮絶な筆致に身を委ねるうちに著者の人生を追体験し、患者を通して見える社会の病理に否応なく気づかされるだろう。嗜癖障害臨床の最前線で怒り、挑み、闘いつづけてきた精神科医の半生記。
目次
「再会」―なぜ私はアディクション臨床にハマったのか
「浮き輪」を投げる人
生きのびるための不健康
神話を乗り越えて
アルファロメオ狂騒曲
失われた時間を求めて
カフェイン・カンタータ
「ダメ。ゼッタイ。」によって失われたもの
泣き言と戯言と寝言
医師はなぜ処方してしまうのか
人はなぜ酔いを求めるのか
著者等紹介
松本俊彦[マツモトトシヒコ]
1967年生まれ。精神科医。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部長。1993年佐賀医科大学卒。横浜市立大学医学部附属病院精神科、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所司法精神医学研究部。同研究所自殺予防総合対策センターなどを経て、2015年より現職。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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