出版社内容情報
「隠喩と神話は人を殺す」自らの癌体験をふまえつつ、病いにつきまとう言葉の暴力を浮き彫りに。円熟期の透徹した文化批評
内容説明
「隠喩は…暴露し、批判し、追究し、使い果たさねばならない」みずからの癌体験をふまえつつ、病いにまといつく言葉の暴力を浮き彫りに。ソンタグ円熟期の透徹した文化批評。
目次
隠喩としての病い
エイズとその隠喩
著者等紹介
ソンタグ,スーザン[ソンタグ,スーザン][Sontag,Susan]
1933‐2004。アメリカの批評家、作家
富山太佳夫[トミヤマタカオ]
1947年鳥取県に生まれる。1970年東京大学英文科卒業、73年同大学大学院修士課程修了。現在、青山学院大学教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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k5
27
「しかし隠喩は回避さえすれば距離のおけるものではない。暴露し、批判し、追求し、使い果たさねばならないのだ」。近代以降の病(とくに結核と癌)は、かつてペストがそうであったような罪に対する罰としてでなく、個人の性格と結びついて語られるようになった。つまり前近代の疫病においては社会や個人の罪が断罪の対象であったのに、近代では人格がその対象になってしまう。だから病はあくまで肉体の問題として捉えるべきだが、それでも隠喩は強固であり、一筋縄ではいかぬというのがソンタグの主張。現下の病については罪でも人でもなく(続く)2020/04/07
かふ
20
『隠喩としての病』は実際にソンタグが癌にかかって社会からはじき出される体験を通して、結核(ロマンチシズム的隠喩)、癌(戦争的隠喩)を過去の文学作品を紐解いてそのように解釈することへの弊害について論じた。結核はロマン派の文学と寄り添いやすい。かもするとヒロイズム的なロマンチシズムに陥ってしまう。そのことが癌との闘いにも言えて、むしろソンタグがその闘争へと論説をはればそれだけ悲劇的様相がその文章に出てくるので分かりにくさがある。2020/04/06
chanvesa
14
「『隠喩としての病』はたんなる論争な書ではなく、勧めなのだ。私の言いたかったのは、医師にほんとうのことを言ってもらいなさい、事態に通じた積極的な患者になって、いい治療を受けることです。」(105頁)かつて、何かの難病を不治の病と表現をすることに患者の団体が反対したということがかつて話題になったが、病気の持つイメージを医学のテクノロジーを用いてどのようにコントロールするのか。隠喩が安易に生まれることでもたらされる不幸。2014/10/12
Sunlight
7
前半は「病は気から」、そんなわけないだろ!と喝破する。そして後半はおそらく執筆時点(1988年頃?)ではいまだ治療法などの確立していなかったHIVについて。後半はやはりなんとなく自信無さげだが、それでも前向きに立ち向かうを意思を示しているのはさすが。2018/10/20
mawaji
5
すべての社会的逸脱は病気と考えうるものであり、病気の心理学的説明をとくに偏愛する現代においては確かに結核は文学的病気だということが著者の膨大な知の蓄積の引用から窺い知ることができました。癌を記述する際の中心的隠喩が戦争用語から借用されているという一節が興味深いです。invasion, defense, sentinel, colony, strategy, debulking, etc…。不治の病も変遷し予防できる癌もあればAIDSで死ななくなった昨今、次の時代のメタファーとなる疾患は何になるのでしょう。2015/05/27