内容説明
民族とは、国家とは、文化とは。植民地主義に抗し生涯を捧げた著者のメッセージ。ポストコロニアル批評の原点。
目次
1 暴力
2 自然発生の偉大と弱点
3 民族意識の悲運
4 民族文化について
5 植民地戦争と精神障害
著者等紹介
ファノン,フランツ[ファノン,フランツ] [Fanon,Frantz]
1925年、カリブ海に浮かぶ西インド諸島(アンティル諸島)の南端近くのフランス領マルチニック島で黒い皮膚をしたマルチニック人として生まれる。第二次大戦中、ドイツならびにこれと協力するフランスのヴィシー政権支配下の島から出て、ド・ゴールの「自由フランス」に志願して参加し、各地で戦った。戦後はフランス本国に学び、リヨン大学で精神医学を専攻して学位を取得、この頃白い皮膚のフランス人と結婚した。1952年に『黒い皮膚・白い仮面』をスイユ社から刊行。1961年12月6日、息を引き取った
鈴木道彦[スズキミチヒコ]
1929年東京に生まれる。1953年東京大学文学部卒業。仏文学専攻
浦野衣子[ウラノキヌコ]
1934年大阪に生まれる。1960年早稲田大学文学部卒業。仏文学専攻。2005年歿(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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syaori
69
著者はアルジェリア民族解放戦線のイデオローグとして活躍した人物で、本書でも<第三世界>の独立の進展についてが語られます。その中で何度も触れられるのは、現地人を「力の言葉」で支配する植民地主義は暴力であり、そこからの解放を目指す闘争の目的はその外国人の地位を占める新たな特権層を作ることではないということ。そうして、「人間を語ってやまなかったヨーロッパ」の人間の行いは「人間否定の連続」だった、我々は「ヨーロッパの真似はしまい」と叫ぶ作者の声は現在も、正確に西欧の<精神>の影の面を突いているように思いました。2024/05/10
まると
19
サルトルによる序文と暴力にまつわる最初の章が少々難解で、ペースをつかむのに時間がかかったが、何とか読了。十分に理解できたかどうかは疑わしいが、魂から発せられる力強い言葉が間違いなく心にズドンと響いてきた。欧州諸国による植民地主義への激しい憤りや批判にとどまらず、アフリカを取り巻く厳しい現実に対する怜悧な分析と、闘いの勝利を確信する、預言者のように熱く、扇動的な美しい言葉(これはもしや口述なのでは)が、ほとばしるように羅列される。約60年前の著作だが、現代の民族問題にも多くの示唆を与えてくれていると感じた。2020/12/22
柳瀬敬二
11
FLNの一員として精力的に活動しつつも、独立目前に病死したファノンの思想をまとめた一冊。サルトルの序文と後にプルーストを翻訳する鈴木道彦氏の解説もついている。アルジェリア独立戦争は単なる闘争ではなく、アルジェリア人達の精神的な解放を伴うものであったという。この時代は、まだヨーロッパ対アフリカ、コロンvsアルジェリア人という二元論的対立構造で世界を捉えることができた。アフリカ人はロボトミー手術を受けたヨーロッパ人と同質である等というトンデモ学説はもはや存在しなくなったが、世界は複雑さを増したように思える。2017/02/05
やまやま
8
暴力論のケーススタディが多く続く。理不尽さと強制とをどう捉えるか、というかなり明確な視点を感じるが、一方で複雑骨折とも思える価値観は、訳者あとがきでも引用されているように、大きな理解者であるサルトルに対して自分と同じように生き急げとせかす逸話でも感じられよう。暴力とは自分に対してはふるいようのない事柄であり、他者からの行為であることはよく認識したうえで、「自分」を含む社会がなぜ暴力を発生するのか、解放運動を訴え続ける中で矛盾を感じていたように思えた。何が悪いのか、悩みを同感できるだろうか。2020/08/09
PukaPuka
8
フランスの植民地支配と民族問題の複雑さについて書かれている。フランスはアラブ人を差別し続けてきたし、アルジェリアで凄まじい弾圧、人権侵害をやってきた。差別的な精神医学理論が、科学的な身をまとった上で存在した。著者は精神科医でもあり、植民地戦争と精神障害についての章は、今までこのような記述は読んだことがなく、目から鱗であった。トラウマ精神医学はPTSD概念の成立過程からアメリカの十八番のように思っていたが、それはあまりに単純過ぎる理解であるとわかった。2016/07/22