出版社内容情報
進化史に飛躍的な変化をもたらした10のエッセンスを核に、生命の来歴の豊穣な物語を描きあげた一冊。高い評価を得た前著同様、レーンは最大級の謎の数々に大胆かつ周到に挑んでいる。
10の革命的「発明」とは、生命の誕生/DNA/光合成/複雑な細胞/有性生殖/運動/視覚/温血性/意識/死。これらはいかに地上に生じ、いかに生物界を変容させたのか? 各一章を割き、最新の科学的解釈、および研究最前線に浮かぶスリリングな仮説や手がかりを語り、それらがわれわれにとって意味するものを問いかける。
たとえばダーウィン以来研究者を悩ませてきた眼や、Z機構と呼ばれる光合成の仕組みは精巧そのものだ。そうした、一見奇跡の業とも思える精密機械の進化を語るとき、レーンの筆はいよいよ冴えわたる。
「世界のあらゆる驚異は、偶然と必然の両方を内包した、ただ一度の出来事に端を発しているのである。」著者はこれを例証すべく、ミクロな事実とマクロな進化を結びつける偶然と必然の両方に、鮮やかな具体像を与えている。それは生命進化の謎への“最終回答”ではない。むしろ、さらなる探究への刺激に満ちており、「科学の目的は実に化け物を捜し出すことなのである」という言を思い起こさせる書だ。
よくできた「器官」だと考えられていたミトコンドリアや葉緑体が、じつは原核生物から進化したという奇想天外(!)な細胞内共生説が認められて以来、進化史における「偶然」の物語は格段に説得力をもつようになった。(そのいきさつは、ニック・レーンの前著『ミトコンドリアが進化を決めた』に詳しい。)進化の途上にはいくつかの、目を見張るような偶発的な事件があって、それが進化の道筋に、跳躍と呼ぶにふさわしい革新を与えたらしいのだ。
どんな場合でも偶然は私たちを驚かせるけれど、進化史においてはとりわけ、偶然の産物はまるで奇跡のように見える。ニック・レーンもそこに魅せられていて、進化の「偶然と必然」への驚嘆と畏敬が、『生命の跳躍』の全10章の底流をなしている。こう書くと、ジャック・モノーがずばり『偶然と必然』というタイトルの本で論じたテーマと同じものと思われそうだが、レーンの言う「偶然」は、モノーの言うそれとは異なる次元の「偶然」だ。モノーの「偶然」は、 DNA上の“常に起きている攪乱”のことを指し、一方レーンの「偶然」は、ほんとうに歴史上たった一度しか起きなかったような偶発的“事件”のこと。モノー流の偶然と必然のプロセスに沿って粛々と進む進化の道行きを、レーン流の偶然が突然に、ぐいっと捻じ曲げてしまう。いや、捻じ曲げるというよりも、子どものころに絵本で読んだ、命のロウソクを接ぐ話を思い出す。死に瀕している男が死神の目を盗んで、短くなっている自分の命のロウソクに、まったく別の長いロウソクを接いでしまうショッキングな話だ。レーンの言う「偶然」はあの話のように、進化史にまったく新しい運命と可能性を接いでしまうように見える。
もっとも、別の運命を接ぐ事件が起こった後の展開は、受動的にちびていくだけのロウソクとは違う。そこが、進化の発明のまさに、まさにファンタスティックなところだ。最初の一歩は偶然でも、その先は必然性をもって、したたかに構築されていく──変異と、適応と、選択による創造のプロセス。たとえば『生命の跳躍』で描かれる眼の進化のシナリオによれば、あらゆる動物の眼の祖先となった原初の光受容細胞が生まれたのは、たった一度の“事件”だった。でもそこからレンズを備えた複雑な眼が進化する間には、方解石からミトコンドリアの集合まで、手近にあるレンズ様の物質を臨機応変に流用しながら眼の設計が発展する過程があったという。進化の「必然」の創造性も、人間のちっぽけな想像力などはるかに凌駕している。
どんなアクロバティックな偶然が、どれほど巧緻な必然が、進化の10大発明──生命の誕生/DNA/光合成/複雑な細胞/有性生殖/運動/視覚/温血性/意識/死──を生んだのか。その具体的中身は『生命の跳躍』を読んでのお楽しみ。ミクロの世界の隅々まで人の手が及ぶようになった今もやはり、生物学は涸れることのない驚きの泉だ。
編集者から
前著『ミトコンドリアが進化を決めた』で高い評価を受けた著者の待望の新著で、本国イギリスでもロイヤル・アカデミーから賞を受けるなど、高く評価されています。生命にとって最大級のテーマばかり10個を選んで各一章で語り、その全体で一つの進化史を描くという趣向。「生命それ自体と同様、この本も驚きに満ちている」というルイス・ウォルパート評のとおり、否が応にもワクワク感をかき立てられる書きっぷりです。まだ専門誌上でもホットな「仮説」まで積極的にとりあげる大胆不敵な著者ですが、複雑な科学知識を正確さを損なわずに優美に描写する力をあわせ持っていて、いつのまにか細胞や分子が織りなす世界に引き込まれます。生物進化のとてつもない創造力に圧倒されたり、その創造のプロセスが思いがけない偶然とからみ合っていることに驚愕したりと、読みごたえ十二分。
生命の跳躍 目次
はじめに 進化の10大発明
1│ 生命の誕生――変転する地球から生まれた
2│ DNA――生命の暗号(コード)
3│ 光合成――太陽に呼び起こされて
4│ 複雑な細胞――運命の出会い
5│ 有性生殖――地上最大の賭け
6│ 運動――力と栄光
7│ 視覚――盲目の国から
8│ 温血性――エネルギーの壁を打ち破る
9│ 意識――人間の心のルーツ
10│ 死――不死には代償がある
エピローグ
謝 辞
訳者あとがき
図版リスト
参考文献
索 引
内容説明
進化史に飛躍的な変化をもたらした10のエッセンスを核に、生命の来歴の豊穣な物語を描きあげた一冊。高い評価を得た前著同様、レーンは最大級の謎の数々に大胆かつ周到に挑んでいる。10の革命的「発明」とは、生命の誕生/DNA/光合成/複雑な細胞/有性生殖/運動/視覚/温血性/意識/死。これらはいかに地上に生じ、いかに生物界を変容させたのか?各一章を割き、最新の科学的解釈、および研究最前線に浮かぶスリリングな仮説や手がかりを語り、それらがわれわれにとって意味するものを問いかける。
目次
はじめに 進化の10大発明
1 生命の誕生―変転する地球から生まれた
2 DNA―生命の暗号
3 光合成―太陽に呼び起こされて
4 複雑な細胞―運命の出会い
5 有性生殖―地上最大の賭け
6 運動―力と栄光
7 視覚―盲目の国から
8 温血性―エネルギーの壁を打ち破る
9 意識―人間の心のルーツ
10 死―不死には代償がある
著者等紹介
レーン,ニック[レーン,ニック][Lane,Nick]
インペリアル・カレッジ・ロンドンで生化学を学んだのち、王立施療病院(Royal Free Hospital)で酵素フリーラジカルと移植臓器の代謝機能に関する研究をおこない、PhDを取得。その後ロンドンの医療関連マルチメディア企業の戦略部長を務め、現在は科学専門誌Nature等に寄稿する科学ライターとして活躍するとともに、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの遺伝・進化・環境部門にミトコンドリア研究コンソーティアムを立ちあげて研究を進めている
斉藤隆央[サイトウタカオ]
翻訳者。1967年生まれ。東京大学工学部工業化学科卒業。化学メーカー勤務を経て、現在は翻訳業に専念(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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