内容説明
戦争で家族を失い故国を追われた老人は生まれてまもない赤ん坊を抱いて難民となった…『灰色の魂』の作者がおくる言語の壁を越えた、友情と共感のドラマ。
著者等紹介
クローデル,フィリップ[クローデル,フィリップ][Claudel,Philippe]
1962年フランスのロレーヌ地方に生まれる。作家・脚本家。小説『忘却のムーズ川』(1999)でデビュー、その後も『私は捨てる』(2000年度フランス・テレビジョン賞)『鍵束の音』(2002)など着実に作品を発表してきた。『灰色の魂』(2003、邦訳、みすず書房、2004)によって三つの賞を受賞、いまや大いに注目を浴びている。ナンシー大学で文学と文化人類学を教えながら、故郷の小さな町で執筆を続ける
高橋啓[タカハシケイ]
1953年北海道に生まれる。翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
352
戦争によって故郷を喪失し、そして息子夫婦をも失った老年のリンさん。彼が密航船で辿り着いたのはフランスのどこかの港町。今、リンさんが唯一所有しているのは、息子夫婦の忘れ形見である乳児だけだ。言葉も通じず、したがってコミュニケーションの手段も奪われていた。そんな中での妻を亡くしたバルクさんとの奇妙な友情物語。言葉で表現されながら、言葉での表現を超えた、心と心の本当の意味での繋がりを描く本書は、まことに稀有な場所に位置する小説だ。リンさんの歌う故国の女歌が、物語の抒情と余韻を喚起する。2018/02/24
KAZOO
153
小説というか、エッセイというかそのような感じを受けます。結構悲劇的な話なのでしょうが、そこのところをあまり感じさせない気がします。実際は難民問題などのことがあるのでしょうが。言葉は通じなくても人間の暖かさが伝わってきます。人の交流の原点のような気がします。このような話では年をとると涙腺が緩んできてしまいます。2016/03/01
はたっぴ
103
『洋子さんの本棚』より。難民となったリンさんが幼子と逃れた国で築いた異国人との友情に涙ぐみ、ゆっくりと二度読み。本書では戦争の愚かさと人間の冷酷さに打ちのめされるが、傷つけば傷つくほど癒される不思議な作品である。戦争で家族を亡くしたリンさんが異国の地で出会ったバルクさん。二人が言葉の壁をものともせず、噛み合わない会話で心を通わせる様子が胸に沁みて思わず落涙。バルクさんにも根深い苦しみがあるが、リンさんによって浄化されていくのだ。この世には微笑みと温かい手で救われる心がある。私もこの作品に癒され救われた。2017/12/14
ふう
93
悲しみを知る二人の老人が、たとえ言葉は通じなくても心を通い合わせて寄り添っていく姿に、感動ともうこれ以上の悲しみが押しよせませんようにと不安を覚えながら読み進めました。頑なに扉を閉ざして生きていくこともできるのかもしれません。でも、温かい手にふれたとき、本当はこの温かさを求めていたことに気づきます。それが人生にとってどんなに大切で価値のあるものか、失ったことのある人にしかわからないかもしれません。そして、そんな二人に訪れた奇跡…。奇跡を信じていいんですよね。2017/10/16
nobi
89
表紙絵、タイトル、日本語訳のですます調から童話風世界が展開する…のではなかった。長編のような拡がりと起伏のある物語が始まる。シンプルで美しい文のまま、なぜ年老いたリンさんは孫娘と二人なのか、なぜ異国の地まで船で来ることになったのか明らかにされる。そして言葉の通じないバルクさんとの出会い。深い喪失の悲しみを抱えた二人の間に生まれるシンパシー。地味に思えた二人がささやかな、でも光り輝くシーンを生み出して行く。最後リンさんの強い思いに突き動かされた行動は、無謀というより全てを投げ打つ聖人の姿に重なって心震えた。2017/05/12