出版社内容情報
「翻訳は原作の鏡である。ただし特殊な造りの鏡で、原作が属する文化とは異なる文化の装置が一面に嵌め込まれている。原作のなかで、その鏡が映しだしにくい部分は歪められ、変形させられ、ときには鏡面から完全にはじかれて写されなかったりする。この本では、そのさまを、日本語と英語の文学作品にかんして、垣間見ようとした。例えば日本文学にあふれている〈悲しみ〉あるいは〈物悲しさ〉の受け皿が英語にはないらしいこと、〈清々しい絶望感〉という日本人には何となくわかるフレーズが英語に吸収されるためには複雑なパラフレーズをへねばならないこと……」(おわりに)。
翻訳は異文化理解の、多分もっとも重要な手段の一つである。しかし翻訳は〈或る文化〉を正確に伝えることができるのか? 本書は原作と訳文をていねいに照合しつつ、異文化間の表現の〈ずれ〉を検証してゆく。『テス』における〈手〉、『こころ』に現われる血のイメージからパラグラフや主語の省略まで、翻訳における問題点を具体的に提示する。細部への探究から生まれたユニークな比較文化論の試み。
北條文緒(ほうじょう・ふみを)
1935年東京に生まれる。1958年東京女子大学文学部英米文学科卒業。1961年一橋大学大学院社会学部研究科修士課程終了。現在 東京女子大学現代文化学部教授。イギリス小説専攻。著書・編著『ニューゲイト・ノヴェル』(研究社)『ヒロインの時代』『遙かなる道のり イギリスの女たち 1830-1910』(共編著、国書刊行会)『ブルームズベリーふたたび』(みすず書房)『嘘』(短篇集、三陸書房)訳書 E.M.フォースター『眺めのいい部屋』『永遠の命』『アビンジャー・ハーヴェスト』『民主主義に万歳二唱』(共訳)、Q.ペル『回想のブルームズベリー』S.ソンタグ『他者の苦痛へのまなぎし』(共にみすず書房)ほか。
内容説明
『こころ』『テス』から村上春樹・吉本ばななまで。翻訳における日本語と英語表現の「ずれ」を検証し、異文化理解の問題点を具体的に示した細部の文化論。
目次
たとえば、泣くことをめぐって
単語の意味範囲
「悲しみ」
パラグラフ(段落)
日本語における主語の省略
心情表現の具体性・抽象性
固有の風物・固有の表現
二つの英訳―夏目漱石『こころ』
ロドリゴは日本人―遠藤周作『沈黙』
哀しみと怒り―村上春樹『羊をめぐる冒険』
バナナの味はどこに?―吉本ばなな『キッチン』
著者等紹介
北条文緒[ホウジョウフミオ]
1935年東京に生まれる。1958年東京女子大学文学部英米文学科卒業。1961年一橋大学大学院社会学部研究科修士課程終了。現在東京女子大学現代文化学部教授。イギリス小説専攻
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