lettres
六月の長い一日

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  • サイズ B6判/ページ数 173p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784622048015
  • NDC分類 953
  • Cコード C0097

出版社内容情報

書評情報:
鈴村和成さん/文春図書館

内容説明

「教えてほしいの。シモンのことがどうも腑に落ちなくて。あなたは私なんかよりも古くからの知り合いでしょ。どうしてあんな風になったのか、ぜひ教えてほしいのよ」名門出のシモンは、何故すべてを投げ出して姿を消してしまったのか。その挫折の原因を、ルネは女友達のローリスとともに探索する。街路樹の木蔭の小暗い部屋に閉じこもり、六月の長い長い一日をかけて…。二人がすでに六十代に入っている現在と、戦中・戦後のさまざまな過去との間を時間は行き来する。幾重にも重なる時間のひだの奥から、シモンとそのまわりの男女が姿を現わし、消えて行く。いかにもグルニエ的なこの小説は、日本において戦後民主主義高揚期の解放気分とその後の幻滅を味わった世代に共通する物語=歴史でもあるだろう。

著者等紹介

グルニエ,ロジェ[Grenier,Roger]
1919年、カーンに生まれ、ポーで育つ。戦後カミュにさそわれ「コンバ」紙で働く。「フランス・ソワール」紙編集部を経てガリマール書店文芸顧問。著書に『シネロマン』(1973年、邦訳、白水社、1977年)『水の鏡』(1976年、邦訳、白水社、1984年)『編集室』(1977年、邦訳『夜の寓話』、白水社、1992年)『黒いピエロ』(1986年、邦訳、みすず書房、1999年)エッセイ『降る雪を見よ』(1992年、邦訳『チェーホフの感じ』、みすず書房、1993年)『フィッツジェラルドの午前三時』(1995年、邦訳、白水社、1999年)『ユリシーズの涙』(1998年、邦訳、みすず書房、2000年)ほか多数

山田稔[ヤマダミノル]
1930年、門司に生まれる。作家。著書に『スカトロジア』(福武書店)『コーマルタン界隈』(芸術選奨文部大臣賞、みすずライブラリー)『生の傾き』『太陽の門をくぐって』『北園町九十三番地 天野忠さんのこと』(以上、編集工房ノア)『シネマのある風景』(みすず書房)『ああ、そうかね』(日本エッセイスト・クラブ賞、京都新聞社)ほか。訳書にゾラ『ナナ』(河出書房新社)アレー『悪戯の愉しみ』『フィリップ傑作短篇集』(以上福武書店)『フランス短編傑作選』(岩波文庫)グルニエ短篇選集『フラゴナールの婚約者』(みすず書房)ほか
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感想・レビュー

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kthyk

21
シモンの周りを巡り、拘ったものの、語るべきことは何一つ語っていない、というルネとロリーヌの暮れなずむ六月のパリの長い一日。始まりは戦時中の占領地帯の北部、つまりパリではなく、南部の自由地帯での学生生活。しかし、川のないクレルモン=フェランを嫌い、生活は宙ぶらりんだが、解放以前の街に行くシモンと私。前作を引き継ぎこの作品もまた、個人的印象だが音楽空間。意味を探すならその形式を読むしかない。通奏低音となって聴こえるのはトマス・マンの「魔の山」、ロレンスの「知恵の七柱」、ガストン・バシュラールの「空間の詩学」。2023/02/08

二戸・カルピンチョ

21
この物語のように、多くの人生は成功とも失敗とも、幸とも不幸ともつかず、過去を見る目しか持たない私たちは、記憶の奥の栄光と過ぎ去った選択への後悔で、わざと胸をいっぱいにしたりする。それさえも生きている証拠になってしまうのだろう。2023/01/15

ねこさん

21
記憶は混濁したまま身体を漂っている。回想は、その時の感覚を身体に再生させるそれとは異なる。どんな意図をもってその淀みにうたかたを浮かび上がらせるか、他者という欲求の指向性を介して物語性を持たせ、味わうことが許される能動的な行為。その時々に意味を持たなかった関与がもたらす結果の深刻さ、それを人知れず持ち続け、不意に再生される不安に人はおそらく耐えられない。対話は制御できないからこそ、深刻さに意味を持たせる。確かな手応えのない幸不幸、そこに意味を与えてくれる回想ができれば報われずとも生きられるのかもしれない。2018/06/20

qoop

6
戦後の大きな変化の中に溶けて消えた旧世代の人々。無意識かつ無気力に自殺を志向するかのような彼らの人生は何を顕しているのか。下方修正された民主主義に寄りかかって希望と理想を失い、色褪せていくフランスの姿か。来し方に思いを馳せ、輝きが褪せていく様子を振り返る老残の現在。流された末に乾いた心の在りようが切ない。2017/02/02

刳森伸一

3
没落した男について語り合う初老の男女。思い出と郷愁、友情と愛情、栄光と挫折、そんな様々なものが混ざり合う過去をゆっくりと静かに掘り下げていく様は、全盛期を過ぎ、後は消えゆくだけの自分たち人生を納得させるかのよう。しかし、納得できる人生なぞあるのだろうか。2018/10/16

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