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出版社内容情報
パリの移民地区を舞台とする破天荒な小説。異文化のモザイク都市の感触を実験的に、リアルに描く。
内容説明
アラビア語、トルコ語に満ちた移民地区のパリ、ポストコロニアルな、流れ者の、文盲のパリを舞台に、未来の混血都市の地図を描き出し、読む者をユートピアに向けて、フィクションと寓話に向けて開いてゆく、現代文学の快挙。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
108
パリが舞台で、特殊な性的嗜好を持つ男性が主人公の物語。一貫したプロットがなく、断章を積み重ねて現代社会の歪みを表現している。パリに移民が押し寄せてきて、混乱が起きている状態が描かれており、この点は現代社会の状態を予見した内容だ(1982年に執筆)。ユーモラスなところが多く、何度も吹き出してしまった。主人公の男が、エレベーターの中で1ヶ月ぶりに妻と会話をする所などは本当に可笑しい。猥雑で黒い笑いに満ちた物語も最後の2章で急に姿を変える。叙情的で作者の祈るような気持ちが伝わってきて、心を打たれた。2017/04/04
みねたか@
19
80もの断章で構成される200ページ余の作品。その内容たるや、激しくぶっ飛んでいる。服に忍ばせたハツカネズミを囮に公園で少女たちに近寄って変態写真を撮り、アパートのエレベーターで数ヶ月ぶりに遭遇した妻と大立ち回り。しかし我が主人公をただの変態と侮るなかれ、民族の坩堝となり、エキゾチックで野蛮なパリでの不穏な動きの中心人物であるらしい。結局なんの話?そんな疑問も持ってしまうが、これこそこの小説が叩き潰そうとした唾棄すべき伝統的文学観なのだろう。旦敬介氏の熱量のある訳も素晴らしい。2018/09/23
mejiro
10
バロウズに似てるそうだが、本書のほうが読みやすい…理解できてるかは別として。テロや移民など時事問題が出てくるが、主人公の怪しい行動に気をとられる。私、おまえ、作者の声と、主語と断片が錯綜する文章に混乱する。作者が作中で公言するくらい脈絡がない。おまけに語り手を信じるな、って…。われらが主人公の変態趣味の裏に、真の言葉は隠れている。ユーモラスで乱雑な断章から飛躍し、壮大な視野が開ける最後の数章は圧巻。今では珍しくない結末なのに、心を揺さぶられた。本書はある種の福音かもしれない。2017/06/26
gu
8
なるほど、バロウズか。それとロブ=グリエを感じた。フランスで都市で陰謀(でロリ)だからか。移住者たちによって擾乱されるル・サンティエの街並みのようにポストコロニアルの目によって解体され笑いのめされているけれど。それとリカルド・ピグリアの『人口呼吸』と文章の空気が似ていると思った。あちらが縦軸なら、こちらは横軸という感じ。2016/07/01
qoop
7
パリを舞台に、抑圧の末に表通りへと噴き出した移民の可能的人生をパラレルかつランダムに書き並べ、それぞれが露悪的に侵食しあってバッドエンド…かと思いきや、寓意的な仕掛けでニヤリと(読み手によってはゾクッと?)させられる趣向。移民の増加と排斥、テロの兆しと苛烈な反発など、現在進行形の問題を扱いながら、主人公の個人的(で社会通念に反した)嗜好を本筋に絡めることで単純な賛否への支持を拒み、偽善を指弾し悪意を萎えさせる。蓋されてきた暗部の深さをすくい取る苛烈さに息を飲みつつ、薄く笑ってしまう。2017/01/12