出版社内容情報
ディドロの小説を「変奏」した傑作戯曲。ユーモアの饗宴のうちに20世紀末の憂愁が漂っている。
内容説明
「ペストの時代における気晴らし」として、ディドロの小説『運命論者ジャックとその主人』を自由に変奏してみせた本書は、ディドロから作り事の楽しみとユーモア、遊戯性と合理精神を受けつぎながら、今日という時代のメランコリーにも欠けていない。また序文は、クンデラによる小説の技法と自作へのコメントとして興味深いものである。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
areazione
9
劇作自体は、奔放な艶笑劇といった印象だ。緩やかさが心地よい。白眉なのは序文。「愛のある」ロシア的精神に祖国が占領されたとき、クンデラ氏の頭にディドロが思い浮かんだという。氏によれば、ディドロの「運命論者ジャックとその主人」こそが、西欧近代の精神を濃縮しているそうなのだ。感情と理性の危うい均衡を、ユーモアによって実現したものが西欧近代の精神だ。軽はずみなおしゃべり劇に見える本作には、西欧近代のあがき、という深刻なテーマが込められている。序文を読むことで、劇作の意味が変わってきて、十重二十重に面白かったです。2016/10/18
azimuth
8
音楽には全く詳しくないのだが、それでもこの戯曲が限りなく音楽的であるということは理解できる。モティーフが全体を通して繰り返されており、それどころか折り重なるようにお互いを追いかける一連のエピソードはフーガを思わせる。三人の男女の間での一つの事件が、三つの集団によってほぼ同様に経験される。「名前と事物の乖離」という題材は、ソシュール以降の時代の作家なら国を問わず興味をそそられたようだ。/序文がよい。このように哲学的に語るとき、クンデラの言葉は一種演説のように力強いものになる。2012/06/09
三柴ゆよし
5
梅デラ先生。序文は素晴らしく必読である。2016/11/15
きゅー
5
ドニ・ディドロの『運命論者ジャックとその主人』を下敷きにした、戯曲。原作を読んでおいたほうが良いのだろうが、こちらを単体で読み進めてそれほど問題にはならないと思う。いずれにしてもこの戯曲はあまり楽しめなかった。彼が得意とする多声楽的な演出を試みてはいるのだが、そうした試みは所々でしかなく、全体的にはもとのストーリーをなぞっているだけのようだった。そうであれば、あの独特の語りを楽しむためにも、ディドロの書いたものを読んだほうが楽しい。この作品はタイトルが原作と似通っているように、内容も似通いすぎていた。 2012/02/10
takeakisky
1
先日亡くなったクンデラの戯曲。ディドロを読んだのに続けて。序文が素晴らしい。中盤まで、ほんとうにエレガント。数々の目の曇りがクリアになる。もやもやと感じていることが、さも軽々と事もなげに。うっとりとなる。さて、戯曲。素晴らしい変奏を味わうには、少しオリジナルとの時間的隔たりが少な過ぎたようだ。苦心の跡みたいなものばかり見えてしまうようで、あまり楽しめない。作者の自負したとおり、アダプタシオンでもレデュクシオンでもなくヴァリアシオンであり、クンデラのレシだったが、読む側に問題があった。忘れたころ再び読もう。2023/12/19