出版社内容情報
往診先での医師と家族のあり方を描いた表題作はじめ、精神科医の観察と感受と寛容が生んだ38篇。
中井久夫(なかい・ひさお)
1934年奈良県に生れる。京都大学医学部卒業。現在 甲南大学文学部人間科学科教授。著書『中井久夫著作集――精神医学の経験』全6巻別巻2(岩崎学術出版社、1984-91)『最終講義――分裂病私見』(みすず書房、1998)ほか多数。訳書にエレンベルガー『無意識の発見』上下(共訳、弘文堂、1980)のほか、みすず書房からはサリヴァン『現代精神医学の概念』『精神医学の臨床研究』『精神医学的面接』『精神医学は対人関係論である』『分裂病は人間的過程である』、ハーマン『心的外傷と回復』、バリント『一次愛と精神分析技法』、さらに『現代ギリシャ詩選』『カヴァフィス全詩集』『リッツォス詩集 括弧』、ヴァレリー『若きパルク/魅惑』などが刊行されている。最近作にはヤング『PTSDの医療人類学』(共訳)『エランベルジェ著作集』(全3巻)がある。
内容説明
往診先での医師と家族のあり方を描いた表題作をはじめ、独自の文化論「きのこの勾いについて」まで。精神科医としての観察と感受と寛容が生んだ38エッセイ。
目次
家族の深淵 往診で垣間見たもの
Y夫人のこと
二つの官邸へ
学園紛争は何であったのか
「マルス感覚」の重要さ
戦時中の阪神間小学生
新制大学一年のころ
雲と鳥と獣たち
旗のこと
文化を辞書から眺めると〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ネギっ子gen
49
【語ることは一般に良いことではなくて、ある条件下にのみ良いことなのである】分裂病や老い、独自の文化論でもある「きのこの匂いについて」など、精神科医としての観察と卓越した感性が生んだエッセイ38篇。1995年刊。書影の写真は著者撮影。本書の白眉である「精神病棟の設計に参与する」は、勤務先の神戸大学精神科病棟・清明寮の設計に携わった顛末が綴られているが、カラーの設計図が圧巻。<ニュートン、ダーウィンのクラスが出るためには、イギリスのように、大学が奇人・変わり者を保護する何世紀もの歴史が必要かもしれない>と。⇒2025/03/18
ばんだねいっぺい
29
一つの家族が棲む場所が、訪問者を飲み込むような漫画の「双亡亭」のイメージであること。奇しくも「双亡亭」の名の示すとおり、患者と治療者が感応し過ぎれば、「双方とも亡き者」となり「砂の女」となること。 その命綱として、誰かを帯同すること。後半の詩の読解は高尚すぎて高尚すぎて、退屈だったが、詩作という行為と分裂症時の言語操作の関連は、重要だろう。2019/01/08
アオイトリ
26
医者が治せる患者は少ない。しかし、看護できない患者はいない…と言う言葉につかまり、中井先生のエッセイを拝読。圧倒的な教養の深さと語彙の豊さは鴎外のようでした。ちょっと私には敷居が高かったけど読めてよかった。哲学よりも詩を好んだ青年は結核を患い、独立して生きることができる道として法学から医学に転入する。精神健康の基準とは精神の健康を危うくするようなことに耐えられる力。と言われた先生。柔らかさが尊重される今にあって、少し前時代的に感じられる強く逞しい男性性が新鮮でした。2024/10/20
訃報
11
最初の一編、事実が小説より奇なんじゃなくて、やっぱり、事実であろうと小説であろうと、語る声が優れていれば事実も小説を凌駕する、というか、語り直された事実はもはや事実ではない、といって小説でもない、なんと言っていいのかわからないけど、こんなものが存在するのかと驚いた。感覚、ボルヘスに似てるかも。文体も独特で、割と読みづらいけど面白い。2016/04/24
名前ちゃん
7
中井久夫の徹底的に弱いものの側につく姿勢がはっきり出ている。本人があとがきでこの本は毒が強いと書いていたけど、毒気というより激しい意思を感じた。Y夫人のこと、と家族の深淵、ある少女、学園闘争、精神科病棟設計の章が素晴らしい。あと、読むたびに違うところではっとする。脈が時計に同期すること、中井先生と患者の脈が同期すること、訳詩のあとに不眠が治癒したこと、人が入らなくなった家は荒れること、それぞれの家の独特の雰囲気は入った人を吸い込む奇妙な力を持つこと、などなど体と心と環境、体験、人間関係の複雑な相互作用2015/07/26
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