出版社内容情報
ホロコーストと向き合うことは難しい。が、このおぞましい出来事について知ることを拒否するものは、それを繰り返すだろう。だから、正面から取り組み、語ることは私たちの責任である。
1997年、スウェーデン政府は、ヨーロッパにおけるホロコーストについて、国民、とくに若い世代に向けて、その真実を伝えようとするプロジェクト、「生きている歴史」を発足させた。この成果が本書であり、1998年の刊行後、ドイツをはじめ多くの国々で翻訳されて現在に至っている。
この本がこれほどまでに各国で受け入れられている理由は、多様な資料によって伝わる具体性が、戦争を知らない若い人々にも、歴史の犠牲者たちの苦しみや悲しみを感じ取り具体的にイメージする力、つまり想像力を起こさせる力を持っていることにある。
人間としての権利や自由を剥奪されたゲットーでの生活、収容所での過酷な労働、その果てに殺されたユダヤ人たちの姿を、本書は写真や人々の証言のみならず、日記、年譜、当時の法令、詩、絵など多角的な資料を通して、私たちの目の前に浮かび上がらせる。 毎日毎日、ユダヤ人を満載にして収容所に到着し、空になって発車していく列車…その時刻表とヨーロッパ各地から収容所へ向けて延びる鉄道地図が、幾千の言葉より多くを語ることがある。一篇の詩が、歴史の真実を刻むことがある。
大戦下のヨーロッパでユダヤ人の身になにが起こったのか? なぜ起こりえたのか? ごく普通の人間が大量殺戮の計画に直接・間接に加担し、長期にわたって実行してきたホロコーストの事実は、身の毛がよだつほど恐ろしいものだが、事実を知ることを拒否することは、再びその悪夢を繰り返すことにも繋がるだろう。
-日本の読者へのメッセージ-
スウェーデンはドイツに占領されたり国内のユダヤ人を殺された経験はありません。とはいえ、スウェーデンにも固有のホロコーストへの対応の歴史があります。日本についても同じことがいえるでしょう。さらに、ホロコーストに対する各国の反応がそれぞれ異なっていたことを理解するのはとても大切なのです。ドイツの同盟国という立場で示された日本の反応についても、日本自身の文脈の中で、より広い歴史的視点に立ってとらえることが重要です。……私たちは、教師と学生、生徒が一緒に、また親たちが子どもたちと一緒に、この本を読んでくださることも望んでいます。
S.ブルッフフェルド/P.A.レヴィーン
-語り、伝えるということ-
目の前の人によって語られる体験が、大きなリアリティを持って立ち上がってくるのを私はかんじました。歴史上の遠い出来事だと思っていたホロコースト。それを、自分と同時代を生きている人が原体験として記憶にとどめているという事実に、身震いしました。……本書は、加害者・被害者双方の証言や回想録、日記、文学作品、法令など、さまざまな資料をもとに多角的に光をあてて、ホロコーストが現実化していく経緯をわかりやすく浮き彫りにしています。……異なった世代の人たちが人間の尊厳について話し合うことにつながれば、この本は大きな役割を果たすことになるでしょう。(訳者・高田ゆみ子)
-『語り伝えよ、子どもたちに』に寄せて-
まず第一に、本書出版の経緯に注目したい。スウェーデン政府、首相の提唱により〈生きている歴史〉叢書の1冊として書かれ……無償で配布されたこと。次に、本書がホロコーストすなわちユダヤ人大虐殺をテーマとしながらも、シンティ・ロマ(かつてジプシーと呼ばれた)、精神または身体障害者など「忘れられた犠牲者」に読者の目を向けさせようとしていることである。そして本書の最大の美点はなんといっても、〈子どもたちに〉ホロコーストの記憶を伝えるための工夫が見事になされている点であろう。殺された子どもたちの名前、「出てゆけユダヤ人!」ゲームや絵本『毒キノコ』の紹介、写真や日記など、ホロコーストにおける子どもたちの運命に関心を向けるべく導かれる」。
(解説・高橋哲哉)
また、日本語版には特に、日本人外交官、杉原千畝のビザを手に神戸へやって来たユダヤ人の姿を追う一章、
中村綾乃「カウナス・神戸・上海―ホロコーストと日本」を付す。
書評情報:
週刊朝日 2002.5.3-10号に石井信平さんが書評
毎日新聞 2002.3.24 池澤夏樹さんが書評
「ナチスに寄るユダヤ人虐殺の歴史を若い世代が知らないことに危機感を抱き、スウェーデン政府が家庭に無償配布して話題を呼んだ『語り伝えよ、子どもたちに』の邦訳が出版された。昨年の教科書問題を機に関心が高まるなか、関係者から注目されそうだ」(北海道新聞 2002.3.24/ほかに、沖縄、岐阜、福井など)
朝日新聞のコラム「記者は考える」(2/22)で、この本に登場するのは、統計処理された数字ではなく、すべて名前を負った個人だ。大虐殺を人々の肉声で再現している。「行間から立ち上がる肉声は、心をわしづかみにする」と紹介された。
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こういう本を待っていた!
新しい世代のために。
歴史には忘れてはならないことがあるのだから。
坂本龍一(本書オビより)
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Stephane Bruchfeld(S・ブルッフフェルド)
1955年、ストックホルム生まれ、 現在も同市在住。ウプサラ大学で教鞭を取る歴史学者、専門はホロコースト・ジェノサイド研究。1945年以降のスウェーデンにおける「歴史修正主義」に関する研究で博士号取得。スウェーデン反ユダヤ主義反対委員会、「生きている歴史フォーラム」メンバーである。著書に『絶滅の否定』『ネオナチズムによるアウシュヴィッツの歴史歪曲』。
Paul A. Levine(P・A・レヴィーン)
1956年、ニューヨーク生まれ。在スウェーデン歴は長く、現在ストックホルム在住。ウプサラ大学助教授としてブルッフフェルド氏と同じ研究所でホロコースト研究に従事、特に、中立国スウェーデンのヨーロッパにおけるナチの犯罪に対する対応について研究している。同テーマについて書かれた著書に『無関心から行動主義へ スウェーデン外交とホロコースト、1938―1944年』がある。
中村綾乃(なかむら・あやの)
1976年、兵庫県生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。現在、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士前期課程に在学中。
訳者:
高田ゆみ子(たかだ・ゆみこ)
1956年、大阪府生まれ。東京外国語大学ドイツ語学科卒。東京大学大学院比較文学比較文化修士課程修了。訳書 G・パウゼヴァング『最後の子どもたち』(小学館、1984年)『見えない雲』(小学館、1988年)『ロバート・キャパ スペイン内戦』(岩波書店, 2000年)。
解説:
高橋哲哉(たかはし・てつや)
1956年、福島県生まれ。東京大学仏文科卒業、 同大学大学院哲学専攻博士課程単位取得、現在、東京大学大学院総合文化研究科助教授。著書『記憶のエチカ―戦争・哲学・アウシュヴィッツ』(1995、岩波書店)、『戦後責任論』(1999、講談社)、『歴史/修正主義』(2001、岩波書店)ほか。共編『〈ショアー〉の衝撃』(1995、未来社)、『ナショナル・ヒストリーを超えて』(1998、東京大学出版会)ほか。
内容説明
いつのどんな世にも個人の「生」がある。個人の「生」の歴史の集積が、全体の歴史をかたちづくっていく。個人の記憶やことばに耳を傾けることが、それを実感するうえで、いかに大きな力を持つか。―被害者、加害者、傍観者の証言、さらに写真や年表、地図、絵や詩など、多様な資料によってホロコーストの記憶を次代へ伝える。
目次
第二次大戦前のユダヤ人の生活
ゲットーの設営
強制収容
大量殺戮の開始
抵抗運動と支援
傍観者
ホロコーストから学べるか?
著者等紹介
ブルッフフェルド,シュテファン[ブルッフフェルド,シュテファン][Bruchfeld,St´ephane]
1955年、ストックホルム生まれ。現在も同市在住。ウプサラ大学で教鞭を取る歴史学者。専門はホロコースト・ジェノサイド研究。1945年以降のスウェーデンにおける「歴史修正主義」に関する研究で博士号取得。スウェーデン反ユダヤ主義反対委員会、「生きている歴史フォーラム」メンバーである
レヴィーン,ポール・A.[レヴィーン,ポールA.][Levine,Paul A.]
1956年、ニューヨーク生まれ。在スウェーデン歴は長く、現在ストックホルム在住。ウプサラ大学助教授としてブルッフフェルドと同じ研究所でホロコースト研究に従事。特に、中立国スウェーデンのヨーロッパにおけるナチの犯罪に対する対応について研究している
中村綾乃[ナカムラアヤノ]
1976年、兵庫県生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。現在、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士前期課程に在学中
高田ゆみ子[タカダユミコ]
1956年、大阪府生まれ。東京外国語大学ドイツ語学科卒業。東京大学大学院比較文学比較文化修士課程修了
高橋哲哉[タカハシテツヤ]
1956年、福島県生まれ。東京大学仏文科卒業。同大学大学院哲学専攻博士課程単位取得。現在、東京大学大学院総合文化研究科助教授
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感想・レビュー
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Jiemon
たかゆじ@石原プロは永遠だ!!!
札幌近現代史研究所(者。自称)