出版社内容情報
第二次大戦中のナチスによるユダヤ人虐殺について、私たち日本人は、フランクル『夜と霧』ヴィーゼル『夜』(いずれもみすず書房より出版)などを通して、ある程度の知識を持っている。が、それとは比較にならないくらい小規模ではあるが、しかし残虐さ、非道においては本質的に少しも変わらないホロコーストが行われた事実についてはほとんど何も知らない。本書は、分裂病と創造性についての画期的な理論を発表したことで高名なアメリカの精神医学者シルヴィアーノ・アリエティ博士が、第二次大戦中、出身地であるイタリアのピサ市内で起きたナチスによる虐殺事件について書いたドキュメンタリー小説の翻訳である。
内容説明
「ピサの斜塔」で有名なイタリア・ピサに、パルナスと呼ばれる男がいた。パルナスとはユダヤ教の会衆長の意である。彼はユダヤ教徒、キリスト教徒のわけ隔てなく経済的・精神的援助を惜しまず、人々の尊敬を集めていた。1944年夏、ピサを南北に分断するアルノ川を挾んでドイツ軍と連合軍が対峙する。ドイツ軍支配下の北岸にあるパルナスの家には何人かのユダヤ人が集まり、連合軍による解放の時を待っていた。著書のアリエティは、若き日にピサからアメリカに亡命した高名な精神医学者である。本書は故郷ピサの歴史とそのユダヤ人共同体についての貴重な証言であり、知られざる南欧系ユダヤ人(セファルディー)の生活と信条の吐露ともなっている。血とインクが綴る会衆長=パルナスへの鎮魂歌。人間の苦悩と恐怖と高貴にせまる。
目次
1 ある特別な共同体
2 7月31日の午後と宵の口
3 アンジェロの問い
4 パルドーとエルネスト
5 7月31日の夜の客人たちとシルヴィア、ジョヴァンナ、およびアリーチェ
6 7月31日の夜のパルドー
7 松林のなかのアンジェロ
8 8月1日の夜明け
9 8月1日の早朝
10 対決
11 聖アンドレア通りで