出版社内容情報
法哲学は法学と哲学という二つの領域にわたる学問分野です。その学習・理解のためには、いずれの領域の最小限の知識も必要ですが、この分野で特に熱心に論じられている諸問題に関する知識が不可欠です。ほとんどの学問分野について言えることですが、研究に際しては、特に初期の段階で、信頼できる概説書や事典が大変有益です。それらの助けなしに、いきなり難解な専門書や党派的な論争に飛び込んだりして闇雲に学ぶことは一知半解の独善に陥りかねません。さいわい現在の日本では法哲学のすぐれた概説書が何冊も存在しますが、その一方、明治以来研究の歴史が長いにもかかわらず、これまで法哲学の事典は存在しませんでした。法学や哲学の事典の中には法哲学関係の項目が含まれていますが、それだけでは十分と言えません。海外でも法哲学の事典はごく僅かしかないようです。
このような状況で、日本で初めて法哲学の事典を刊行できることになったのは大きな喜びです。本書が日本における法哲学研究に寄与することを願っています。
本書の方針としては、各項目見開き2ページの中項目事典の形をとりました。内容を断片的な知識にとどめることなく、ある程度の分量をもって記述する方が、広く深い理解に至るでしょうが、その一方、長すぎる記述はかえって印象が散漫になりがちで、一般の読者には不親切だと考えます。また各項目の内容は現在の学界の知見を簡潔かつ明晰に述べることを目標としました。本書はレファレンス・ブックであって自説開陳の場ではありませんから、執筆者には独自研究の披瀝を避けてもらうようお願いしました。その一方、本書の項目は署名原稿ですから、執筆者の見解や個性がおのずと出てくることは無理に避けませんでした。このことは数百の項目の調子を単調にせず、全体の繙読を容易にすると期待します。
本書は第Ⅰ部「法哲学の基礎理論」、第Ⅱ部「法の一般理論」、第Ⅲ部、「法学の方法論」、第Ⅳ部「正義論・法価値論」、第Ⅴ部「法哲学と実践」、第Ⅵ部「法思想史」という6部から構成されています。「法哲学の諸分野」という項目で説明されているように、法哲学は法概念論・法学方法論・正義論という三つの分野に大別されることが多いのですが、本書の第Ⅱ部は法概念論に、第Ⅲ部は法学方法論に、第Ⅳ部は正義論に大体対応します。そして第Ⅰ部は法哲学と他の学問分野との関係などごく一般的なテーマを、第Ⅴ部は実践的な応用を、第Ⅵ部は法哲学上重要な思想家たちを、それぞれ取り上げました。(「刊行にあたって」より一部抜粋)
【目次】
■第Ⅰ部 法哲学の基礎理論
第1章 法哲学とは何か
法哲学・法理学・法理論
法哲学の諸分野
法哲学の方法
方法二元論
実験法哲学
理論と実践
第2章 法と隣接分野
基礎法学としての法哲学
法哲学と法解釈学
法哲学と政治理論
法哲学と倫理学
法と経済学
法哲学と法史学
法哲学と法社会学
法哲学と比較法
法と文学
法と感情
法と進化
法と自由意志
第Ⅱ部 法の一般理論(法概念論)
第3章 法の一般理論としての法概念論
juxとlex
法と道徳
悪法
法の効力(妥当)
自然法論(一般)
法実証主義(一般)
法命令説
国家学
純粋法学
法段階説
義務賦課ルールと権能付与ルール
一次ルールと二次ルールの結合としての法
内的視点と外的視点
自然法の最小限の内容
理由
規範的法実証主義と記述的法実証主義
原理とルール
正答テーゼ
解釈的法理論
第4章 法の一般理論としての法的諸概念の分析
権利と義務
規範
強制
権威
同意
国家
主権
正統性と正当性(合法性と正統性)
法的人格
意志
理性
第5章 実定法の一般理論
実定法・成文法
制定法と慣習法
判例
公法と私法
生ける法
国際法
法多元主義
第6章 法の一般理論の分析視座と現代的展開
法の定義
コンセプトとコンセプション
法の継受
法と制度
法律家と一般市民
批判法学(CLS)
ポストモダン法学
第Ⅲ部 法学の方法論
第7章 対象
法源
衡平
学説
一般条項
因果関係
法の欠缺
法命題
第8章 技法
法的推論
法論理学
義務論理・様相論理
法の解釈方法
利益衡量
裁量
立法論と解釈論
第9章 学派
概念法学
自由法論
レトリック論
原意主義
形式主義
プラグマティズム法学
純一性としての法
法解釈論争(戦後の)
司法的積極(消極)主義
第Ⅳ部 正義論・法価値論
第10章 正義の基礎概念
正義(一般)
自由
平等
自然権
人権
権利の本性
自律
尊厳
法の支配
価値相対主義
手続的正義
功績
幸福
第11章 正義の諸理論
リベラリズム
パターナリズム
卓越主義
コミュニタリアニズム
リバタリアニズム
アナーキズム
公正としての正義



