内容説明
必要なのは日本語力。そして、死んでも締切りを守る精神力と体力だ―『大国の興亡』『文明の衝突』などで知られる、出版翻訳の第一人者が、「プロの翻訳」の奥義を明かし、出版界で「フリー」として生きる厳しさを語る。
目次
1 なぜ会社をやめるのか(私の労働体験;会社をやめるさまざまな理由;編集者をやめるまで)
2 なぜ翻訳なのか(フリーの翻訳者になること;翻訳者へのさまざまな道;フリーになって)
3 翻訳者の条件(フリーの仕事の適性とは;何よりも日本語が大事;挫折と不安と障害)
4 職業としての翻訳(新しい出会い;翻訳は教えられるのか;さまざまなトラブル)
著者等紹介
鈴木主税[スズキチカラ]
1934年、東京生まれ。出版社勤務ののちフリーの翻訳家に。ウィリアム・マンチェスター『栄光と夢』で翻訳出版文化賞を受賞。ベストセラーとなったポール・ケネディ『大国の興亡』やサミュエル・ハンチントン『文明の衝突』など、ノンフィクションを中心に翻訳書多数(本書巻末のリスト参照)。著書に『私の翻訳談義 日本語と英語のはざまで』(河出書房新社、1995/朝日文庫、2000)、編著に『私の翻訳図書館』(河出書房新社、1996)がある。また、翻訳グループ牧人舎を主宰している
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感想・レビュー
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奥澤啓
32
鈴木主税。英語のノンフィクションを数多くてがけた名翻訳家である。生前に出版した翻訳書は約270冊。ギネスものではあるまいか。ひとつのことに打ち込んだ人の体験談は重い。翻訳家になるまでの経緯。英語はできてあたりまえ。何よりも日本語力、文章力。それに、死んでも締切りを守る精神力。私は20冊位の氏の訳書を読んだ。すべてよどみなく読了した。直訳調でぎこちない翻訳はある。誤訳もある。たとえ優れた内容でも文章がだめな翻訳は落第である。思わず引きこまれて、読まされてしまうようなものが理想である。そういう体験をしたい。2014/12/14
Ted
7
'01年2月刊。○誤訳の解説がメインかと思いきや、著者が翻訳家として独立するまでの経緯や、フリーの翻訳家を目指す場合の覚悟やリスク、職業的適性について書かれたエッセーだった。名翻訳家だけあり、端正で上品な日本語で書かれている。自伝的な要素もあるので、翻訳そのものについての本だと思っていると肩透かしを食うが、「英語が得意だから」という安易な理由で翻訳家を目指そうと思っている人が手に取れば、それがいかに誤った発想かが実例を交えて詳しく書かれているので有益だろう。高度なスキルが求められる割には待遇が見合わない。2013/06/03
シゲリッチ
3
翻訳家としての大家というイメージより、仕事にかける情熱と職業としての現実の話にこれほど誠実に事実を書いたことに驚きを感じた。ほとんど内部告発スレスレの内容なのに罪を憎んで人を憎まずの姿勢が見える。本が出て20年、現在を知りたくネットで見るとすでに2009年に逝去されていてびっくりした。読んでいるときに文体から肉声すら感じていたが、枯れた亡くなられた人の感じに思えなかった。感動!2021/07/12
父帰る
3
ポール・ケネディの『大国の興亡』、サミュエル・ハンチントンの『文明の衝突』の翻訳者として著名な鈴木氏の人となりに興味があったので、読んでみた。横文字はほんとんど出て来ない。著者は英文学の専門家でもなければ、英語のそれでもない。好きこそものの上手なれということか。私の読書の傾向はノンフィクション。鈴木氏がどうしてこの分野に関心を示したのか知りたかった。著者の年齢からすれば、終戦の時は11歳。そして占領時代。多感の頃に戦争前後を過ごしたのだ。その他、翻訳業界や出版業界の実情も知ることができる。2016/01/31
のり
1
フリーランスで働くとはどういうことかについて著者の体験が詳細に書かれていた。翻訳者の資質という部分も面白かった。出版社の編集、フリーランスの通訳、通訳グループの統括を経験した上での話であり、通訳に限らずフリーランスを目指す人にとって大いに役立つ内容だと思われる。2018/01/12