内容説明
バニーを殺害したヘンリーたち5人は、アリバイをつくるため奔走する。4月にしてはめずらしい大雪のおかげでバニーの死体はなかなか発見されない。音信が途絶えた息子の身を案じたバニーの父親は、彼を捜し出した者に5万ドルの礼金を支払うと新聞に告知した。警察、FBI、マスコミをはじめ、ハンプデンの町中がバニー捜しに躍起になる。一方、バニーを殺したという罪悪感からヘンリーたちの精神は蝕まれ、固い絆で結ばれていたはずの友情はもろくも崩れていく…。英米で大絶賛された超大物新人のデビュー作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
136
ビターだな。そして若くて青い。出てくる青年たちが。教師までもどこか。5人しか生徒を取らないギリシャ語の教授。そこに6人目が加わる。彼らは、古代語を真面目に勉強し、プラトンやアリストテレスに傾倒し、イリヤードを読み、隠語にはギリシャ語で。ちょうど ホメロスを読んだ後にこの作品を読んだので、彼らに親密感を抱いた。そんな彼らの中で、一人いた異分子。繊細な4人と相容れない俗悪さ。排除もできない、教師を含めた密閉された関係。そう言えば、ギリシャ文学は悲劇が目立つ気がする。未熟さを含め楽しむ作品だと思った。2017/09/15
NAO
59
ヘンリーたちのしたことは犯罪で、もちろん罰せられるべきだが、ハイエナのように他人にたかるバニー自身、倫理観がどうのといえる立場だったのか。 本当は、そういう指摘ができるのはリチャードなのだが、裕福かつ秀才のヘンリーに憧れているリチャードには、それができない。誰よりも俗物であるがゆえに、バニーにはヘンリーの目くらましが効かないというのが、この話のミソなのだろう。2020/09/23
ヘラジカ
31
『ゴールドフィンチ』邦訳刊行記念に読了。楽園であるハンプデンでの生活が脆くも崩れていくとき、同時にアメリカの倒錯的な側面、謂わば病巣といったものが徐々に浮かび上がっていく。「シークレット・ヒストリー」が何故「シークレット・ストーリー」ではないのか、この辺りに理由があるのだろう。淡い青春物語の根底にギリシャ神話的なカオスを置いた傑作。客観的に見て「非の打ち所がない小説」とは決して言えないのだけれど、作品への思い入れから手放しで絶賛せずにはおられない。とても好きな作品。読み終えてしまって非常に寂しい。2016/06/08
星落秋風五丈原
25
【ガーディアン必読1000冊】上巻はシダを餌にバニーを誘い込む場面で終わっており、決定的なその行為については意図的に飛ばされている。誰が何をどのように分担したのかは、その後の彼らの反応によって明かされる。酒に溺れたり、友人たちの間で疑心暗鬼に駆られたり、邪魔者を排除して楽園を形成したはずなのに、彼らは地獄にはまり込んだ。ならば地獄から救い出してくれるのは、頼れる大人しかいない。ところが、神のように崇め彼の言葉を信じてギリシャ風の祭りまで行ったのに、あっけなく教授に逃げられてしまう。2021/06/08
Wisteria
12
本当に面白かった。バニーを抜かした5人の関係が徐々に崩壊して、結局全員が孤独になる。才能に溢れた特別な人間のように見えた一人一人も、バラバラになった途端に魅力も消え失せた。友情は儚い。誰にも当てはまらないような話でありながら、不思議な共感を誘う物語だった。2019/05/25