出版社内容情報
明治三十八年、福井県麻生津村。増永五左衛門は、この地に農業以外の産業を根づかせるべく苦闘していた。そんな時、大阪へ出稼ぎに出ていた弟の幸八が、当時はほとんど普及していなかっためがねに着目、村でのめがね製造を提案する。村人たちの猛反対の中、輝く地平を求めて、二人は困難な道を歩み始めるのだった--。「金の角持つ子どもたち」等で注目を集める作家・藤岡陽子の新たなる代表作の誕生!
内容説明
1905年、福井県麻生津村。冬は雪が深く、農業以外に産業のない寒村である。庄屋であった増永五左衛門は、なんとかこの地に産業を根づかせられないか試行錯誤を繰り返していた。あるとき、大阪へ出稼ぎに出ていた実弟の幸八から「眼鏡づくりを村でやってみてはどうか」と提案を受ける。五左衛門は「これからは日本もどんどん教育が進み、本や新聞を読む人たちが増える。だから眼鏡は爆発的に普及する」という幸八の熱い説得に、「よし、ここで眼鏡を作ろう」と決断する。想像を絶する苦難の道のりが始まった…。
著者等紹介
藤岡陽子[フジオカヨウコ]
1971年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業。報知新聞社を経て、タンザニア・ダルエスサラーム大学留学。慈恵看護専門学校卒業。2006年「結い言」が、宮本輝氏選考の北日本文学賞の選奨を受ける。09年『いつまでも白い羽根』でデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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しんごろ
178
1905年、福井県麻生津村が舞台。増永五左衛門、弟の幸八が眼鏡作りを産業に根付かせようとスタートさせる。手探りの状態でゼロからのスタート。奮闘に奮闘を重ね、金策やら飛び込み営業やら、苦労と困難を乗り越えた時の喜びは、さぞ大きかったことだろう。自分もこの仲間の輪に入って喜びを分かち合いたかった。増永兄弟の何とあっぱれなことか。この二人を支える五左衛門の妻のむめもあっぱれ。更に末吉など名前を挙げたらきりが無い。これはもう、読むプロジェクトXだ。眼鏡を使用してるそこのあなた。一読の価値ありですよ。2023/06/23
みっちゃん
147
良かった。メガネフレーム国内シェア96%の福井県鯖江市の礎を築いた兄弟とその妻の奮闘。だけではなく3人の切なくも優しい繋がりが良い。特に兄五左衛門の一度もまみえず嫁いできた妻むめに一目惚れ、が実は妻は弟と結婚するものと勘違い、自分に落胆していると知った時の悲しみ、2人に嫉妬しそうになる自分を抑えて信じようとする姿勢、無骨で無口、不器用で庄屋として頭など下げた事のない彼が、行李に眼鏡枠を詰めて断られ続けても小売店から小売店を廻る姿に胸を打たれた。大仰な台詞回しなどなしに細やかな心情が伝わる作者の筆致が好き。2023/11/24
ちょろこ
129
眼鏡の枠作りヒストリーの一冊。1905年、冬の寒さが厳しい福井県麻生津村で芽生えた村の存続を賭けての熱いプロジェクト。眼鏡で有名な地だと知ってはいたけれど、改めて身近にあるものの歴史を知るのは面白い。そしてその裏側のドラマを知ると愛おしさが増す。増永兄弟の、先を見据えた想いの種がようやく実を結ぶまでの紆余曲折に共に一喜一憂し、職人を育てる中での葛藤、職人同士に生じる悔しさと競い合いには時折、涙が。眼鏡一つで誰かの人生が、村の未来が変わる素晴らしさ。ものづくり大国・日本に生きる日本人の心に直球で届く感動作。2023/12/15
サンダーバード@永遠の若者協会・怪鳥
84
(2023-146)【図書館本】眼鏡の町福井県鯖江市。その礎を築いた増永眼鏡店の創業者、増永五左衛門とその弟幸八。明治時代末期に産業など何もない寒村に眼鏡と言う新しい産業を起こした兄弟。二人が行ったのは高い山登り、その名も「無謀」というなの高く厳しい山。だが、その苦労があって今世界に誇る「鯖江ブランド」ができている。眼鏡無しでは生活ができない私にとってはとても興味深く読むことができた話でした。★★★★2023/12/08
さぜん
65
眼鏡産業を立ち上げた福井の豪農、増永兄弟の物語。人々の暮らしを豊かにするには農業以外の産業を立ち上げなければならない。これからの日本は教育が重要。読み書きをする人が増えれば眼鏡が必要になると信じ様々な苦難を乗り越え、今や世界に誇る産地となった。私も幼い頃から近眼で眼鏡なしでは生活できない。わがままで困っていたがもしや見えてない?と思い、眼鏡をかけさせたら大人しくなったと母親に言われた。ものづくりの発端は自分のためではなく人のためなんだな。史実に基づきながら登場人物の心情も丁寧に描かれ、とても面白く読了。2023/12/18