出版社内容情報
私の未知数は、あの夫に全てやってしまった――。人の業、脆さ、卑屈な感情を独自の筆致で丹念に描き出し、直木賞候補となった傑作が
内容説明
村からただ一人、町の塾へ通っているりつ子は、乗っていた路線バスの運転手・一之瀬から突然名前を呼ばれ戸惑う。りつ子は一之瀬のある事実を知っていた(「1983年のほたる」)。人の闇の深さや業を独自の筆致で丹念に描き出し、直木賞候補になった傑作が待望の文庫化。
著者等紹介
西川美和[ニシカワミワ]
1974年、広島県出身。02年、『蛇イチゴ』でオリジナル脚本・監督デビューを果たす。06年、長編第2作となる『ゆれる』で第61回毎日映画コンクール日本映画大賞ほか、国内の主要映画賞を受賞。初めての小説執筆となった同名作品が三島由紀夫賞候補となる。09年、『ディア・ドクター』は、第33回モントリオール世界映画祭コンペティション部門に正式出品されるなど、国内外で絶賛される。同作のアナザー・ストーリーとして刊行された小説『きのうの神さま』が、第141回直木賞候補作となるなど、小説家としても高い評価を得ている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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naoっぴ
97
ああやはり西川さんの小説はいいです。うまく言葉にしきれない感情や葛藤を、なんて上手に表現してくれるんだろう。人の表の顔と裏の顔、言葉の陰に見え隠れする感情の切れはし、建前と本音。ひとりの人間の中に存在する相反する感情をこれほどリアルに描けるなんて、すごい才能だと思いました。5話の短編小説ですが、子どもから見る大人の人物像、僻地医療の現実、医師の家庭、父親の急病、介護の苦悩などを描いた話の中で見えてくる人間のありのままの心情にものすごく共感。どの話も甲乙つけがたい秀作揃いだと思います。 2017/09/13
あも
87
僻地医療を題材にした5編を収録。著者らしい物静かな時の流れを感じることができる。離島や山奥。必ずしも医者本人が主人公ではない。誰かの人生の断片をスポイトで吸い取って眺めているような。エンタメ的な面白みは然程ないが、巧みな心情描写に惹き込まれる。触れれば壊れてしまうような心の機微をすくい取る力に長けているのだろう。感動的な文脈で使われた言葉ではないが、『涙の理由が正確に理解されることは、少ない。』という一節が心に残った。表に見えるそれらしき感情の奥、その人が本当はどう思ってるかなんて、誰に分かるというのか。2018/09/12
yuyu
81
僻地医療をテーマにした短編集。映画「ディア・ドクター」の取材を小説に纏めた作品。僻地、介護、そして、年老いていく物悲しさ。そんな灰色の空気が漂い、自分の今の状況と重ね合わせるとなんとも表現し辛い感情が湧き上がってきた。「生きる」、「長く生きる」ってなんだろうと、改めて考えさせられた。2018/09/23
5 よういち
79
僻地医療に携わる医師や、その周辺で病気や死を受け入れながら暮らす人々を描いた4編と、思春期の少女の目を通し、彼女の成長とともに移り変わる周辺の人たちの姿が描かれた1編、計5編の短編集。◆どの作品もなんとなく重厚な感じがして、低く垂れこめた曇り空の雰囲気のような作品だった。そこに雨が降っていないのは、ズバッと現実を突き付けて曇ってしまう中でも思いやりや直向きさを持って生きる人たちの姿が優しく描かれているように感じたから。◆どれも秀作だと思うが、特に好きだったのは「1983年のほたる」と「満月の代弁者」2018/07/01
まさきち
78
「永い言い訳」に続き西川さん2冊目。僻地で医療に何らかの形で関わる人々を主人公に据えた5編からなる短編集。話の流れに大きなうねりはないものの、その静けさの中でそれぞれが抱えている悩みや鬱屈に真摯に向き合い、上手に昇華させているように思えてなかなかに気持ちのいい一冊でした。特に「ディア・ドクター」はお気に入りです。2017/02/07