内容説明
18世紀、爛熟の時を迎えた水の都ヴェネツィア。『四季』の作曲家ヴィヴァルディは、孤児たちを養育するピエタ慈善院で“合奏・合唱の娘たち”を指導していた。ある日、教え子のエミーリアのもとに、恩師の訃報が届く。一枚の楽譜の謎に導かれ、物語の扉が開かれる―聖と俗、生と死、男と女、真実と虚構、絶望と希望、名声と孤独…あらゆる対比がたくみに溶け合った、“調和の霊感”。今最も注目すべき書き手が、史実を基に豊かに紡ぎだした傑作長編。
著者等紹介
大島真寿美[オオシママスミ]
1962年愛知県生まれ。92年「春の手品師」で第74回文學界新人賞を受賞。『宙の家』で単行本デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
591
ヴェネツィアのピエタ(捨子養育院)で、その生涯を送ったエミーリアが、静かに綴る物語。巧みなのは、ヴィヴァルディの死から物語を語り起こし、追想の中に在りし日々を蘇らせる構成だ。つまり、全盛時をあえて描かないことで、物語りをロマネスクな覆いで包み込むのである。一方、ヴェネツィアのピエタ、ヴィヴァルディがそこで果たした役割などを、ほぼ史実通りに描くことで、物語に強固な枠組みをも与えている。ピエタでは、花形のヴァイオリニストでも歌手でもなく、地味な事務長役に徹したエミーリアを語り手に選んだことも成功している。2014/03/09
なゆ
371
18世紀のヴェネツィアを舞台に、ヴィヴァルディの死後、ゆるやかに紡ぎだされる物語。ピエタ慈善院でヴィヴァルディに音楽を学びながら育った娘たちと貴族の娘、ヴィヴァルディの妹たちや、関わりのあった人たち…一枚の楽譜を辿って、それぞれの秘めた思いや苦悩、そしてヴィヴァルディの作った音楽への想いが静かに豊かに語られる。そして最後にゴンドラの上で歌われる歌は、清らかで美しくて涙がこみあげた。むすめたち、よりよく生きよ。すばらしい余韻とともに、ヴァイオリンの音色が聞こえるような本でした。2012/06/12
くろり - しろくろりちよ
278
慈善院ピエタと、それを取り囲む塀の一部に作られた木製の、捨て子を受け入れるためのスカフェータ。ピエタの子はそこに捨てられた孤児。ピエタで学び、育ち、ヴェネツィアの街で暮らしていく。素晴らしいマエストロ、ヴィヴァルディ先生が残した一枚の楽譜。時は巡り人は出逢い、街は変化し音楽はあるがままに。最後の素晴らしいまとめあげも見事だったけれど、このヴェネツィアという街の雰囲気が独特で、ピエタの心「むすめ達、よりよく生きよ」が素晴らしい風景となって目の前に浮き上がる。2012/03/19
文庫フリーク@灯れ松明の火
273
読む《よろこびはここにある》結末は勿論ですが、女性同士の会話とその描写がすばらしい。ことに特別な夜・ピエタのエミーリアが高級娼婦クラウディアの強い要望で,貴族ヴェロニカと初めて会った夜。作曲家ヴィヴァルディとの強い縁持つ三人。もし同席できるなら、優れた音楽聴くように無言で会話に耳を澄ますでしょう。静かに満ちていく心。物語は聴くこともできるのだなあ。会話で物事‐例えば恋‐自分一人では見えなかった物が見えてくる。中世・水の都ヴェネッィア舞台に、よりよく生きたむすめたち。善き物語・読めて幸せです。2011/10/29
mikea
257
美しいヴェネツィアが舞台。いつまでも余韻に浸っていたいような、お話でした。音楽小説?と思いながら読み始めましたが、次第に違うことに気がつき、戸惑いましたが、コルティジャーナのクラウディアが登場してからは面白くなって一気読み。孤児を養育するピエタ慈善院で育った主人公のエミーリアと幼馴染のアンナ。恩師ヴィヴァルディの死をきっかけに、ヴィヴァルディと繋がりのある人物と接し、見えてくる想いに気がつくエミーリアにいつのまにか惹かれていきました。年を重ね、いろんな経験をした人ほどこの本の雰囲気が楽しめるのではないかと2012/02/07