百年文庫  34

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  • サイズ B6判/ページ数 169p/高さ 19cm
  • 商品コード 9784591119167
  • NDC分類 908.3
  • Cコード C0393

内容説明

「おとよさアが省作さアに惚れてる」甥の一言に、省作は顔がほてり胸が鳴る。突如芽生えた恋心に煩悶する農家の青年の胸の内(伊藤左千夫『隣の嫁』)。山奥で炭を焼くことしか知らなかった若者が、桜の花見に来たお嬢さんに触れたことから切ない憧れを抱きはじめる『炭焼の煙』(江見水蔭)。諸国を渡り歩いてきた商人が辰巳芸者に惚れた。深川花柳界に繰り広げられる男と女の伊達と侠気(吉川英治『春の雁』)。かなわずとも潔い恋のあれこれ。

著者等紹介

伊藤左千夫[イトウサチオ]
1864‐1913。歌人、小説家。千葉の生まれ。正岡子規に師事。子規の没後、根岸短歌会の中心となり短歌雑誌「馬酔木」「アララギ」を創刊。小説も執筆し、代表作に子規の写生文に影響を受けた『野菊の墓』、自伝的要素の強い『隣の嫁』『春の潮』などがある

江見水蔭[エミスイイン]
1869‐1934。小説家、雑誌発行者、紀行家、探検家。岡山市生まれ。本名忠功(ただかつ)。尾崎紅葉の硯友社同人を経て探偵小説『女房殺し』で人気作家となる。探検小説、児童読物も多く手がけた。講演旅行中の松山で肺炎で客死

吉川英治[ヨシカワエイジ]
1892‐1962。小説家。神奈川県生まれ。本名英次(ひでつぐ)。幼少時に家が没落し、小学校を中退。さまざまな仕事につきながら独学、1925年「キング」誌連載の『剣難女難』、および26年の『鳴門秘帖』で一躍花形作家となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

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やすらぎ🍀

169
人と人を近づけたり離したり。恋のちから。噂は風に乗って、意識してしまって喜んで悲しんで。気があるのないのと。考えないほど考えて忘れるほど愛しい人よ。この想いに果てはない、きっと。親切につい心を奪われて見失って、大空を流れゆく白雲のように、西風の雨に打たれて陽が消えるように、暁を待ち望む人の優しさを思い出すように、すぐに散ってしまう桜を待つように。葉桜となる頃、身体は傷まないのに何処かが痛いのである。原因不明である。風が止めば大空に舞う小さな風船も遠い山を超えて行き場を失うのである。いつの時代も同じである。2023/04/08

新地学@児童書病発動中

124
悲しい恋をテーマにした短編3つ。伊藤左千夫の『隣の嫁』は、明治時代の農家の生活を背景に、夫がいる隣の年上の女性に恋をした青年が主人公の物語。この作者らしい写生を重んじた描写が生きている。江見水蔭の『炭焼きの煙』は、自分の主人の娘に恋をした若者の報われない恋情が切ない物語。吉川英治の『春の雁』は切れの良い短編。大長編で有名な作者は短編の名手だったことも分かる。花柳界で意地を通して生きてきた女芸者が見せる母親としての顔が切ない。2016/01/24

モモ

47
伊藤左千夫『隣の嫁』なかば騙されて嫁してきたおとよさん。おとよさんは隣の家に住む省作に思いを寄せるも…。江見水蔭『炭焼きの煙』「かかる山の中の川の中の島の中の松の中の桜」この表現に惹かれる。その人里離れた美しい場所に地主家族が花見に訪れる。そのお嬢さんに真次は恋をするも…。天国から地獄に突き落とされ、静かに晩年をむかえる真次がせつない。吉川作治『春の雁』東京深川を舞台にした男と女の話。粋な人が集まる深川。芸者に思いを寄せるも、それぞれの事情に男の恋は終わり余韻が残る。恋する思いが少しせつない一冊でした。2022/08/07

22
伊藤左千夫「隣の嫁」 江見水蔭「炭焼の煙」 吉川英治「春の雁」の三篇。吉川英治がよかったですね。各地の遊郭をまわり商いをする清吉が出会った辰巳芸者。大金を渡し、駆け落ちする寸前まで行くものの、母としての一面を見せた彼女に…。話も描写もよかった。抜けるほどに白い襟足が寒紅梅に積もった雪を連想させるとか、あの芸妓の体にはうるさい噂が立っているとか。「体」かあ…ってなった。吉川さんは三国志とか太平記とか平家物語とか大長編スペクタクルロマンが大好きなんですけど、短編もキレッキレでいいものだなあとしみじみ。2020/02/09

星野

19
実直で、不器用な恋のお話三編。印象深いのは江見水蔭の『炭焼の煙』かなぁ。男の炭臭い臭いやら、水流の音やら、木々のざわめきやらが聞こえてきそうな文体が良い。『隣の嫁』と『春の雁』は、時代背景が違うにも関わらず、現代にも共通する、あの生々しい“恋”という摩訶不思議な感覚を綺麗に切り取った作品だと思う。2014/06/17

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