百年文庫  25

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  • サイズ B6判/ページ数 182p/高さ 19cm
  • 商品コード 9784591119075
  • NDC分類 908.3
  • Cコード C0393

内容説明

雪の夜、「昔あったとい」と昔話をしてくれたあの人。実子ではない「私」をいつも温かく抱きしめてくれた亡き母の思い出(加能作次郎『母』)。親戚の娘をいきなり預けられた貧しい夫婦。強引なやり方に反発しながらも、いつしかその娘が愛しくなっていく(耕治人『東北の女』)。ハガキ一枚を頼りに上京してきた娘「初」は押しかけた家で雇ってもらうが、その家の男の子はひどく意地悪で…。孤独な少年を守ろうとする娘の潔い愛が胸を打つ、由起しげ子の『女中ッ子』。雪のように清らかで、温かい物語。

著者等紹介

加能作次郎[カノウサクジロウ]
1885‐1941。石川・能登生まれ。早稲田大学英文科在学中、外国作家の評伝や、小説『厄年』などを「ホトトギス」に発表。博文館で「文章世界」の編集に携わりながら、『世の中へ』を読売新聞に連載して文壇的地位を確立

耕治人[コウハルト]
1906‐1988。熊本・八代生まれ。身内を結核で次々に失い、画家を目指して上京。その後、千家元麿に師事して詩作を始める。戦後は主に私小説を発表、不遇時代が長く続いたが、1969年に『一条の光』で読売文学賞を受賞した

由起しげ子[ユキシゲコ]
1900‐1969。大阪・堺市生まれ。山田耕作に作曲を学んだ後、1925年に画家・伊原字三郎と結婚して渡仏。45年に別居してから執筆活動に入り、49年、『本の話』で戦後復活第一回の芥川賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中

171
自己犠牲とは、なんと美しくかなしいものか。知られなくては意味がないのに。泣いて感謝されたところで、それを彼女が知らないというなら侮蔑されてるのと何がちがうというのか。 雪が積もってありもしなかった罪を隠したら、指をさしたものたちは春を待って罪悪感を忘れるだろう。毎年降り積もる雪を見ても、あの冬美しい犠牲が雪とともにきえたことを思いだすものはもういない。2019/12/27

新地学@児童書病発動中

110
雪が重要な舞台背景になっている3つの短編。いずれも素晴らしい内容で、読者の胸の中にしみじみとした情感を呼び起こす。加能作次郎の「母」は継母と自分の関わりを描く。継母ゆえの愛憎半ばする感情の描き方が巧みで、作中に使われている方言に何とも言えない温かみを感じた。耕治人の「東北の女」は、親戚の娘を育てることになった主人公の複雑な心境を物語にしたもので、昭和初期の庶民の慎ましい生活が強い印象を残す。由紀しげ子の「女中ッ子」は、女中と孤立している少年の心の触れ合いの物語。少年を守るための彼女の決断に心を打たれた。2015/02/15

mii22.

74
雪景色のなかにみる過ぎ去った日の後悔と苦い思いと、はらはらと舞い落ちる淡雪のなかにみる切なさと甘酸っぱい思いが、冬がやってくるたび胸をざわつかせていたのはいつ頃までだったろうか。あの日あの時の記憶は思い出すと鮮明なのに、サクサクと歯にしみる林檎の白さも、雪のように美しく白い肌の記憶も、今はもう手にいれることは出来ない溶けて失くなってしまった雪のようだ。やはり雪は冷たく美しく儚いものだけど、近頃雪があたたかいものでもあることに気づかされた。そのほわんとした心をあたためてくれる雪を私は今年も待ちわびる。2020/01/15

はる

70
「女中ッ子」が特に良かったです。雪国から上京して女中になった初と、家族の中で孤立している男の子とのふれあい。ユーモア溢れる温かな筆致。初と男の子のやりとりが微笑ましい。働き者で優しい初がとても魅力的です。山形のお国言葉にも癒される。クライマックスの大雪の場面では思わず涙腺が緩んでしまった。ラストは切ないけれど、男の子には良かったのかな…。2021/02/11

えみ

59
見返りを求めない愛がしんしんと心に降り注ぐ。静寂に心細くも、その鍾愛に安堵し、優しさの温度で求めた癒しを知る。一片落ちて一話を残す、はだれ雪のような物語。3篇の短編を収録した『雪』。百年文庫シリーズ第25弾。亡き母の思い出は雪の夜、加能作次郎の『母』。預かった娘に戸惑いながらも情愛が湧いていく、耕治人『東北の女』。女中が守り抜いた孤独な少年との心温まる交流と切ない幕切れが印象的な、由起しげ子の『女中ッ子』。それぞれの物語には闇に降り積もった真っ白な雪のような眩さがある。無償の愛と相まってどこまでも清い。2023/02/26

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