内容説明
文化史的に見て、ヨーロッパが本来の意味でのヨーロッパとして構築され、長期に及ぶ歴史上の角逐をへて、ヨーロッパ文学の名にふさわしい作品として熟成され世に問われたのは、ダンテの『神曲』を頂点にしたその前後にあろう。聖と俗の文化、すなわち、天上的志向性と地上的合理性、あるいは、アガペー的なものとエロス的なもの、この両文化が13世紀後半から14世紀初頭に、合成され融和されたのである。そして、この文化の複合的生態は、時代や民族や個人差において、右や左に揺れながら、極端な緊張関係を持続内包したまま現代に至っている。本書のねらいは、この入り組んだ背景を念頭におきながら、価値論としてではなく多様な文化現象として、近代英文学―ルネッサンスから現代に至るイギリスの作家・作品―を各学究の微視的考察を介して、再構成しようとするところにあった。
目次
序章 形而上派が予兆するもの
第1章 ロマン派の時代(ブレイクの『ヨブ記』とシェイクスピアの『リア王』;道徳律廃棄論者としてのブレイク;水面をみつめるワーズワス―不在と現前の物語 ほか)
第2章 ヴィクトリア朝(テニスン『イン・メモリアム』の四部構成;ロバート・ブラウニングの宗教詩の形成―主観と客観の融合;予表論のクリスティナ・ロセッティ)
第3章 世紀末からモダニズムへ(ワイルドの批評とイェイツの詩法;イェイツとカーニヴァル;マンスフィールド「幸福」の結末について ほか)
訳詩(クリストファー・スマート『ダビデに寄せる歌』)
-
- 和書
- あの人は熊