出版社内容情報
戦後高度成長期の文学を牽引し、ベトナム戦争従軍記で新境地を開拓、釣り紀行ルポや美食エッセイでも読者を魅了した開高健(1930~89)。しかしその執筆活動の背景には、妻・牧羊子との容易ならざる家庭生活、闇三部作や『珠玉』に象徴されるニヒリズム、女性たちとの秘密の関係があった。谷沢永一と同僚であった著者が、その〈悪妻〉説に異を唱えつつ、亡き人々への鎮魂の思いを込めて記す開高文学讃。
【目次】
序章 芥川賞作家を創った女性
開高健と牧羊子という視点/開高文学のルポルタージュと純文学という重層性/いまなぜ開高文学なのか
1 悪妻伝説とフェミニズム
悪妻伝説/フェミニズムの時代
2 同人誌『えんぴつ』に集った鬼才たち
焼け跡のなかで/難儀な合評会
コラム① 大阪空襲
3 開高健と牧羊子の出会い
牧羊子という女性/牧羊子の妊娠/結婚写真/牧羊子の変わり身
4 牧羊子の詩の世界
詩集の出版/小野十三郎/『コルシカの薔薇』/リルケの『マルテの手記』
5 開高文学の原点
サルトルの『嘔吐』/大学生の父親/追試験受験風景
6 コピーライターとしての開高健
壽屋入社から東京へ/開高健、柳原良平、山口瞳のトリオ
コラム② 日本の高度成長期を支えたコピーライター
7 初期の作品群 『パニック』、『日本三文オペラ』と『流亡記』
抒情の否定/「パニック」の新聞記事/ネズミの異常発生の描写/『日本三文オペラ』/在日コリアンの「アパッチ族」/『流亡記』とカフカの世界
8 芥川賞受賞
人生の頂点/ジャーナリズムの寵児となる/文士のサロンへの参入
9 大阪 vs 東京
谷沢永一、東京行きを断る/大阪的流儀/「谷沢劇場」/ルポルタージュ『ずばり東京』──「搦め手」から表社会をあぶり出す/オリンピック観戦記
コラム③ 東京オリンピックと文化人たち、街頭観戦風景
10 開高の『ベトナム戦記』
戦下のベトナム行き/開高が見たベトナム戦争/男の約束/散布された枯葉剤/写真の威力と切り口
コラム④ ベトナム戦争と 「ベ平連」
11 政治の季節から小説家への回帰
開高と「ベ平連」/アンガージュマンから小説家への回帰
12 開高文学の頂点『夏の闇』 104
作品成立の経緯/『夏の闇』のテーマ──生の乖離現象/日本人に対する怨念/在日コリアンの悲しみ/蛙とコオロギ、フクロウと栗鼠のメタファー/『夏の闇』のフィナーレ
13 開高健の闇
佐々木千世という女性/『夏の闇』誕生の真相/開高健の闇/佐々木千世はなぜボンに